南米最大の街、ブラジル・サンパウロのラッシュアワー時に響くのは、車のクラクションだけではない。エアタクシーと化したヘリコプターが世界最大級の交通渋滞を見下ろしながら、バリバリと空を割るように飛び交うのが日常風景だ。
ブラジル一般航空協会(ABAG)によると、現在サンパウロには541機のヘリコプターが存在する。個人所有の数は、ニューヨークを抜いて世界一。大企業のビルが立ち並ぶ新興ビジネス街のビーラ・オリンピア地区では、ヘリポートの数がバス停を上回るまでになった。
サンパウロは世界でもトップクラスの渋滞都市。今年6月には渋滞の長さが計295キロメートルという記録を達成し、さらに経済成長で車の所有者が日々増え続けている。そこで、リッチな大企業幹部が、「道路を走っていたらいつまでたっても会社にたどり着けない」と“時間”を買うために利用し始めたのが、渋滞知らずで誘拐や強盗の心配もないヘリコプターなのだ。通勤時間帯だけでなく、昼食時間帯にもヘリコプターの行き来が見られる。
しかも、あまりにヘリコプターの増加が激しいため、民間航空庁は交通事故防止策として、今後製造される機体にはクラクションの設置を要求する方針まで決めた。近い将来、空からクラクションが鳴り響く風景も生まれるかもしれない。
ヘリ市場の活況を受け、エアタクシー会社も年率10%以上の高い成長を続けるが、一方で新たな問題も発生している。「最近は自分でヘリコプターを購入する人も増加し、エアタクシー会社のパイロットを引き抜いていってしまうのです」とある企業の担当者は頭を悩ませる。
BRICsの一角として、急速な経済成長を遂げたブラジル。富裕層の生活はまさに規格外だ。
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