「……乙女座は黄道十二星座のひとつで、八月下旬生まれの人、夏の誕生星座だね。でもこの星座がもつギリシャ神話は、実は『冬の物語』なんだ」
和真が言うと、プラネタリウムの客席に座っていた男が振り返った。
「夏なのに、冬の話?」
「そう。乙女座は冬の起源の物語なんだよ。冬は、一人の男の恋心から生まれたんだ。その男の名前はハデス。地下にある死者の国、冥界の王様だ。この名前、聞いたことがある人いるかな?」
十二席ある客席に座った半数以上が手を挙げた。だが「ハデスがゼウスのお兄さんだって知ってた人は?」と尋ねると全員がその手を下げた。
「実はね、全世界を支配するスケベ大王・ゼウスは、何人も兄弟がいるなかの末っ子なんだ。その兄弟のうちハデスに地下の冥界を、ポセイドンに海の世界の支配を任せているんだね。ゼウス自身は天空を直轄管理してる」
そう言って和真はいったんビールグラスに口をつけた。
「さて、ゼウスをスケベ大王と紹介したんだけど、彼の性に対する好奇心ほんとうに果てしなくて、過去には自分の実のお姉さんにも手をつけた実績もある。ていうか、奥さんのヘラもお姉さんの一人なんだよ」
「……とんでもねぇ」と手前に座っている男の客が唸った。
「うん。もう誰も止められないスケベ大王、または、対エロ用人型決戦支配者、それが大神ゼウスなんだ。そのゼウスにはデメテルという農業の神をしているお姉さんがいた。かつてはそのデメテルにも手を出したことがあって、彼女からはペルセポネという可憐な美少女が生まれたんだ。
すくすく育ったペルセポネは、草原の草花をこよなく愛する森ガールとなった。
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