「ヘラクレス座は全天でも五番目の大きさを誇る、夏の代表的な星座だ。もちろん、ヘラクレスはギリシャ神話でもっとも有名な英雄である、あのヘラクレスだよ」
そう言って和真はビールの泡に唇を沈めた。
「彼の話はつづきものの物語になってて、獅子座や蟹座の物語も主人公もヘラクレスなんだ。じゃあ今回は、そのギリシャ神話最大の英雄が、どうやって生まれたかの話をするね」
プラネタリウムの客席から「はーい」と客たちの手が上がる。まるで学校だ。ただ、その生徒たちはほぼ全員が酔っ払いだった。
「さて、実はヘラクレスの母親は、人間なんだ。
彼女はミュケネの王女・アルクメネ。まぁギリシャ神話に出てくる女性キャラクターはほとんどそうなんだけど、彼女もやっぱり絶世の美女。しかも彼女のお爺さんは、ゼウスの子供でもある英雄ペルセウスなんだよ。
ようするに、アルクメネは超エリートのお姫様ってこと。
彼女は永遠の夢見る少女で、思春期を過ぎても『将来の夢は素敵なお嫁さん!』とか真顔で答えるタイプの女の子だった。まぁちょっとイタいんだね。でも彼女の人生はそう易々と夢の通りにはいかない。なんてったって、ギリシャ神話にはあの男がいるからね。美女と聞けば黙って指を咥えてられない絶倫大王、その名も大神ゼウスです」
「え? アルクメネってゼウスの子孫って言ってませんでした?」
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