第13回】 アジア編—日本の伝統文化を支えるアジア大富豪の経済力

日本の伝統文化である錦鯉や盆栽は、日本以上に海外での人気が高いことをご存じだろうか。かつては欧米の愛好家が多かったが、最近ではアジアの富裕層が、こぞって高級品を買い集めている。

 毎年10月になると、新潟県長岡市周辺には多くの外国人がやって来る。

 お目当ては錦鯉だ。同市内の山古志地域は錦鯉の発祥の地で、周辺には今も多くの養魚場がある。錦鯉の養魚場では10~11月、放流していた野池から鯉を引き上げる“池上げ”を行い、競りを行う(写真)。海外の錦鯉ディーラーたちは、錦鯉を母国へ持ち帰って愛好家たちに販売する。

新潟県の山古志地域で行われた錦鯉の競り会場。外国人ディーラーたちの姿が多く見られる。Photo提供:月刊錦鯉

 「月刊錦鯉」を発行する錦彩出版の馬場俊三社長は、「海外で錦鯉愛好家が増え始めたのは1970年代後半からで、欧米を中心に世界50カ国に愛好家がいる」と指摘する。

 だが、この数年で人気国の顔触れが大きく変わった。

 千葉県成田市にある谷養魚場の谷健治専務は、「落札の7~8割は外国人。特に数百万円以上の錦鯉の多くは中国人が購入している」と明かす。

 また、インドネシアを中心とする海外富裕層向けオークションサイトを運営する五反田電子商事の吉田卓司社長によれば、「この3年間はインドネシアで錦鯉ブームが起きており、昨年は800万円、今年は2200万円の錦鯉が売れた」という。

 実際、アジアの台頭は数字からも明らかだ(図5‐1参照)。

 2001~11年における観賞魚の輸出額を見ると、英国が2億3000万円から8700万円へ、米国も2億3000万円から9800万円へと縮小している。

 一方、香港は8500万円から6億円に増加。マレーシアは4700万円から1億3000万円。さらにインドネシアに至っては900万円から1億6000万円へと拡大している。

 なお、中国は検疫上の理由から輸入を禁止している。そのため、香港に輸出される錦鯉のほとんどが中国に渡っているとみられる。

世界最高の錦鯉の
半数は外国人が保有

 富裕層が錦鯉にはまる理由の一つは、錦鯉を飼うことがステータスとなっていることにある。本格的に飼育するためには、大きな池、浄水設備、餌代など、多くの費用がかかる。

 “泳ぐ宝石”ともいわれる錦鯉は、国内外でさまざまな品評会が行われている。その中でも最高峰に位置するのが、毎年冬に日本で開催される全日本総合錦鯉品評会だ。ここで優勝した錦鯉を持つことは、最高の栄誉といえる。それ故、優勝した錦鯉の中には数千万円で取引されるものもザラにあるという。

 ちなみに今年の同品評会の合計9部門で優勝した錦鯉のうち、5部門は海外勢が占めている(表5‐2参照)。

 もはや「日本の錦鯉産業は海外需要なくしては成り立たない」(谷専務)といえる。

盆栽・盆器は中国バブル
2年で3倍に高騰も

 海外富裕層を引き付ける日本の伝統産業は錦鯉だけではない。

 高級盆栽の通販などを行うエスキューブによれば、「2000年前後までは欧州の需要が高かったが、その後は中国、韓国、台湾、インドネシアなどでの人気が高まり、リーマンショック以降は、さらにその傾向が加速している」(堀越繁魅社長)という。

 錦鯉と同様、ステータスとなっていることもあり、特に中国での人気は高い。「中国で人気が高い赤いモミジなどの盆栽は、取引価格が2年で2倍に上がった」(同)。

樹齢100年のモミジは350万円で落札

 ちなみに、中国では盆栽に使う盆器の価格が、まさしくバブルの様相を呈している。中国は文化大革命で多くの美術品を失ったが、経済力を背景に猛烈な買い戻しが始まっているためだ。

 エスキューブが2年前のオークションで出した約400年前に作られた盆器は当時、中国人が3000万円で落札した。だが、今や1億円の価値が付いているという。

約400年前の盆器は2年前に中国人が3000万円で落札した

 だが、こうした海外富裕層マネーの流入に喜んでばかりもいられない。

 中国などでは錦鯉や盆栽などを大量生産することでビジネスにする動きも出始めているからだ。

 すでに大規模な養魚場が増えつつあり、また、盆栽においても「あと5年もすれば中国の技術は日本と同じレベルに追い付くだろう」(堀越社長)。

 高級品の生産は難しくとも、安いものであれば、生産は十分に可能だろう。いずれ海外でノウハウを蓄積した事業者たちが、日本の伝統産業にとって、ライバルとなる可能性もあるだろう。

 

週刊ダイヤモンド

この連載について

富裕層のカネと知恵【5】~古今東西“超絶”富裕層の教え

週刊ダイヤモンド

巨万の富を築いた海外の大富豪や代々続く地方の名家──。古今東西、本当の富裕層たちはいまなお秘密のベールに包まれた存在だ。彼らはどのような生活をし、いかにして資産を継承してきたのか。※この連載は、2012年10月20日号に掲載された特集...もっと読む

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