きっかけは「愛なき実写化」への憤り
—— 最初に、「ANIMAREAL」というプロジェクトについて、簡単に説明していただけますか。
市 ひと言でいうと、マンガやアニメと〝リアル〟を融合させた、まったくあたらしいアートプロジェクト。それが「ANIMAREAL」です。
—— いわゆる「実写化」とは違うわけですね?
市 そうですね。むしろ、安易な実写化に対する憤りみたいなところからスタートしたプロジェクトなので。
—— 憤りとは、どういうことでしょうか。
市 数年前に、僕が子どものころから大好きだったマンガが、ハリウッドで実写化されたんです。もちろん、映画化の一報を聞いたときには興奮したし、どんな作品になるんだろうと楽しみにしていました。ところが、実際に映像を見てみると「なんだこれ!?」という、かなり残念なものだったんですね。
—— ああ・・・。
市 もう、国が違うとか、予算がないとか、マンガと映画の違いだとか、そんなの以前の問題で、原作への愛やリスペクトがまったく感じられないものでした。 ただ素材として原作を使っているだけというか。そういう安易なクリエイティブが、原作ファンとしても許せなかったし、ひとりのクリエイターとしても許せなかったんです。それで同じ志を持った仲間たちに声をかけて、自分たちが納得できる作品をつくろうと立ち上がったのが、いちばん最初のきっかけになります。 とはいえ、僕らには1本の映画をつくる能力も予算もないので、とにかく一枚絵をつくろう、と。原作ファンとしても納得できて、クリエイターとしても納得できる一枚絵をつくってしまえば、なにか風向きが変わるんじゃないかと思って。
—— 具体的に、「ANIMAREAL」のアプローチは、通常の実写化とどこが違うのでしょうか。
市 マンガ家さんの仕事に対する理解だと思います。マンガって、デフォルメの文化なんですよね。現実にあるものを、いかにデフォルメして「マンガ」のかたちに落とし込んでいくか。いらない要素はギリギリまで削ぎ落として、必要な要素は現実以上に強調して、さまざまなキャラクターや世界全体を表現していく。 一方、僕らに求められるのは、デフォルメされた絵を頼りに、もう一度「現実」にさかのぼっていく力なんです。マンガ家さんの方がなにを削ぎ落として、なにを強調したことによってこの絵に行き着いたのかを考え、ひとつひとつのエッセンスを拾っていく。たとえばマンガでは、キャラクターが着ている服の生地までは描きません。でも、マンガ家さんの頭の中には、必ず生地のイメージがあるはずなんです。僕らはそういうところを拾い集めることによって、単なる実写化ではないアート作品ができあがると信じています。
—— まさに作品に対する愛がないとできない仕事ですね。
市 そうですね。マンガやアニメに対する愛、それからその作品に対する愛と深い理解抜きにはできないことだと思います。
何度も原作を読み返し、作家の意図を探る
—— それで今回『テンプリズム』を「ANIMAREAL化」されたわけですが、すごい迫力ですね!
市 ありがとうございます。
—— この作品で、いちばん苦労されたところはどこですか?
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