10月第5週、11月第1週のおもな出来事
・羽田到着の発熱男性、エボラ検査へ 西アフリカ滞在歴(10月27日)
・山下智久さんを不起訴処分 器物損壊容疑で書類送検(10月28日)
・「たかの友梨」マタハラ・残業代未払いと提訴 従業員ら(10月29日)
・ソフトバンク3年ぶり日本一 阪神に4勝1敗(10月30日)
・米アップルのティム・クックCEO、同性愛を公表(10月31日)
『創』の柳美里未払い問題に見る出版界の原稿料事情
速水健朗(以下、速水) 出版不況なんて言われるようになって久しいですけど、最近は出版界にとって明るいニュースが相次いだね。
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) え、明るいニュース? 村上春樹は結局今回もノーベル文学賞を獲り逃したし……。
速水 ひとつには、柳美里と雑誌『創』の原稿料を巡るトラブルがあった。
おぐら ちっとも明るくないじゃないですか! 2007年の8月から始まった連載をはじめ、対談などの原稿料の一部が7年間にわたって支払われていないっていう。これ大問題ですよ。
速水 何年もギャラが支払われてないのに、なんで連載を続けていたのかという疑問もあるんだけど、積もり積もった未払いの原稿料の額はなんと1000万を超えていたと。
おぐら 柳美里さんがブログで告発したのが10月15日。編集長から事前に口頭で「原稿用紙3枚で5万円」という依頼を受けたということですが*1*2。
*1 『創』休載の理由 - 柳美里の今日のできごと
*2 悪い人 - 柳美里の今日のできごと
速水 出版業って衰退産業と思われているじゃないですか。そんな中で光明でしょう、これは。1200字の原稿が5万だよ。ふつう僕らライター風情が雑誌に書く場合って、基本400字1枚3000円から5000円ってとこでしょう?
おぐら ですね。雑誌の連載で1200文字はよくある数字なので、その計算でいくと連載1本で9000円から1万5000円。月に10本の連載を抱えてれば相当な売れっ子だし、それだけネタをアウトプットするのはかなりの負担ですが、それでも月収にすると9万円から15万円。インタビューの構成とかでも原稿料は変わらないので、月収30万円稼ごうと思ったら月に20本ですよ……。
速水 だからやっぱり、柳美里の『創』での原稿料が400字1枚1万6 666円って、夢のある話なんだよ。ただ、彼女のブログに書かれた貧乏生活の模様は、まったく夢がない。例えば、「給水停止通知書」が水道局から届いていて、水道が止められるギリギリで料金を払ったとか、息子の塾の授業料が何ヶ月も滞っているだとか。
おぐら 貧乏話は脚色しているんじゃないのか?っていうネットの勘ぐりに対しては、11月6日の日記で反論してますね。例えば、映画化もされた『命』『魂』『生』『声』の4部作の印税は1億円近くあるけど、税金で4割持っていかれるとか、かつて同棲していた東京キッドブラザーズの東由多加氏の治療費としてアメリカの病院に支払っていたのが毎週500万円で、その頃の借金と帳消しでほぼなくなったとか。
速水 うーん。飼っている猫の糖尿病の治療費が高いっていう話もしていた。猫と税金は、本当に同情する。
おぐら 『創』編集長とのネット上での論争は、1ヶ月にわたっていろいろとありましたが、最終的には140万8706円を『創』の篠田編集長が全額返金することで一件落着。それが11月4日の柳美里さんのブログで伝えられました。それにしても、未払い分の原稿の行数から文字数までがビッチリ書かれたエントリーには、いち雑誌の編集者としてゾッとしましたね。
速水 ところでおぐらくんは、これまで未払いされた経験とかある?
おぐら 僕の場合、この業界に入ったのは、28歳で無職のときに、当時の『テレビブロス』の編集長に履歴書と企画書を送りつけたことがきっかけで。後日、その編集長から電話がかかってきて、フリーで編集部に籍を置いている先輩を紹介されたんです。それからはその先輩に付きまとって、ひたすら取材に同行しつつ、「原稿も書かせてください!」っていう感じだったので、その修行時代はノーギャラでもバンバン書いてました。今思えば、どれだけやる気があるのか試されてたのかなって。その先輩にとっては、いきりなり知らないやつの面倒をみるように編集長から言われたわけだから、相手してくれただけでも本当に感謝しています*3。 cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。
*3 おぐらさんの当時の話は中川淳一郎さんの連載「「 赤坂のカエル」番外編・カエルの青春」でも触れられています。