東名高速道路の名古屋インターチェンジを降りる。市内中心地へと向かう東山通りは、片側三車線の広々とした道だ。
西へ10分ほど車を走らせると、星が丘につく。地下鉄駅とバスターミナルがある交通の要衝だ。複数の大学や高校のある文教地区であり、星ヶ丘三越や星が丘テラスなどのショッピングモールを有する高級住宅地区である。名古屋へ転勤で赴任した支店長クラスを対象にした、ハイソサエティ向けのマンションも集中している。 この一等地にレクサス星が丘の店舗がある。
もし、あなたがレクサスのオーナーであるとして、東京などから名古屋へ自分の車で仕事に出掛けたとしよう。
そして、もし、全面ガラス張りのレクサス星が丘の前を通ったとしよう。
そしてさらに、もし、運転に支障がない範囲であなたの心に余裕があったとしたら、チラッとレクサス星が丘の方へと視線を向けてみてほしい。
すると、「おや?」と首を傾げるに違いない。
店の入り口に、一流ホテルのドアマンかと見紛うような出で立ちの男性の姿を見ることができる。
次の瞬間、その男性が、深々と一礼する。
とはいっても、あなたは、その“ドアマン”を目で追い続けることはできない。ちょうど、信号が青に変わったところで、そのまま走り去るしかないからだ。
「……あれはいったい何だったのだろう?」
心に疑問が浮かぶ。
「え!? ひょっとして、私にお辞儀をしてくれたのだそうか」
よくわからないが、なぜだか心の中に暖かな風が吹き込まれたような気がするに違いない。
そう、彼は間違いなく、あなたに向かってお辞儀をしたのだ。それは、何かの錯覚でもなく、たまたまのことでもない。レクサスのオーナーである「あなた」にお辞儀をしたのだ。
これこそが、レクサス星が丘の名をレクサスのオーナーたちに知らしめ、レクサス星が丘をキング・オブ・レクサスと言わしめた象徴なのである。
さて、レクサスといえば、誰もが知るトヨタの最高級車ブランドだ。もともと、北米市場で、キャデラックやリンカーン、あるいはドイツのメルセデス・ベンツやBMWに対抗するモデルとして開発された。
1989年のアメリカでの発売に遅れること16年、2005年8月に日本国内においてのブランド展開が始まった。
クラウンやプリウスなどの従来の日本車とは違い、「LS」「GS」「RX」「IS」……と車種名がアルファベットで命名されているのが特徴だ。その点は、メルセデス・ベンツを意識しているかに思える。
実際に乗車して一番に気づくのは、室内の静かさと振動の微少さだ。さまざまな製造工程の技術的なこだわりによるものだが、ボディの接着にその理由の一つがあるという。例えば、ボディの鉄板と鉄板を合わせるのに、より強力な接着剤を使用している。車がカーブで曲がるとき、遠心力により外側にG(重力)がかかる。すると、鉄板に負荷がかかり接着面が剥がれようとする。その際、僅かな振動が生じることになる。レクサスは一般の車に比べて格段の接着力があるため、その振動を抑えることができるわけだ。
そんな細部の品質向上の積み重ねにより、快適さが追及されている。
もちろん、その商品品質は、どのレクサス販売店で購入しても変わることはない。
しかし、日本中のレクサス販売店で、その売上や評判に大きな開きがある。その頂点に位置するのが、本書の主役である「レクサス星が丘」だ。
年間受注台数は、常に1、2位を争う。そして、全国のレクサスオーナーたちのアンケート結果によるCS(顧客満足度)と合わせると、ダントツ1位の評価を得ている。関係者の間では、
「キング・オブ・レクサス」
と呼ばれ、他の販売店(別の経営母体)からは驚異の存在となっている。
また、インターネットの個人ブログでは、レクサス星が丘にまつわる数々の出来事が「レクサス神話」として紹介され、ディーラーの口コミサイトでも5つ星の最高ランクの評価を受けている。
レクサス星が丘を訪れた誰をも驚かすのは、ラグジュアリーな店内の雰囲気だ。2階のラウンジに上がるのにエスカレーターが設置されている。これは全国にあるレクサス店の中で唯一だ。その壁には、大きな風景写真がいくつも掛けられており、視覚で心を癒してくれる。筆者が訪れた際には、部屋の棚に有名作家の陶磁器が飾られ、まるで美術館のようだった。
ソファに座ると、アソシエイト(接客)の女性が床に両膝をついてコーヒーでもてなしてくれる。そこで、ついつい眠りたくなるほどに身体が沈むことに気づく。訊けば、店舗の建設時にはトヨタ自動車のレクサス営業部から指定されていたソファがあった。しかし、それだとお客様が座ったときに、背中に負担がかかることがわかった。そこで特注で背もたれの高いソファを取り寄せたのだそうだ。
何から何まで一流を目指す。
しかし、そんなハード面、外見のことは本書のテーマではない。
レクサス星が丘は、接客、メンテナンス、アフターサービスなどの「ソフト面」が他を寄せつけないほどに極まっているのだ。
本書では、いかにしてレクサス星が丘がナンバーワンになったのかを、「レクサス神話」といわれるエピソードを紹介しながら、ビジネスの、さらには人生の「気づき」のヒントとなるようにお伝えしたい。
読者の皆さんの中には、レクサス星が丘と同じように、住宅、自動車、貴金属、ブランド品などの高価格商品を扱う方も多いことだろう。いわゆる富裕者層に対して「どうしたら売れるのか」という答えを期待して、手に取られた方もいるに違いない。本書は、高額商品のみならず、すべての「物を売る」「サービスを提供する」仕事についている人たちのために役立つことを意識して筆をすすめた。
もちろん、その期待を裏切らないことを保証する。
だが、それ以上に、伝えたいことがある。
一つの仕事を究めると、人生そのものが変わるということだ。
そのために、レクサス星が丘のスタッフの皆さんには、プライベートの部分にまで深く話を伺った。成功の陰には失敗もある。挫折もある。自身の人生と重ね合わせて読んでいただけたら幸いである。
次回(11月17日公開)から、「伝説」ともいわれるレクサス星が丘のおもてなしエピソードを続々紹介いたします。お楽しみに!