どうせなら楽しく生きたい人へ

人生は「ちょっと残念」があたりまえ

洋書のレビュアーであり、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』の訳者としても知られる渡辺由佳里さんが、エッセイ集『どうせなら、楽しく生きよう』という本を刊行。これを記念して、音楽プロデューサーの亀田誠治さんとの対談が実現しました。なんとお互いのことをよく知らないままアメリカで初対面したというお二人。本対談では、それぞれの「楽しく生きる」秘訣についてうかがっていきます。(構成:崎谷実穂

「がんばれ」と「がんばらなくていい」のあいだを教えてくれる本

渡辺由佳里(以下、渡辺) 今日はよろしくお願いします。最初にお会いしたときはお互いのこともよく知らなかったのに、こうして対談しているのは不思議な感じですね。

亀田誠治(以下、亀田) もともと由佳里さんのことは、矢野顕子さんや糸井重里さんのツイートを通じて知ったんです。言葉のやわらかさや空気感から、なんだかこの人自分に合うんじゃないかなってピンときて。それで、今年の夏にニューヨークとボストンに旅行に行くと決めた時、僕がいきなりTwitterのDMでご連絡したんですよね。「亀田と申します。怪しいものじゃありません」って(笑)。

渡辺 それで、ボストン近郊のエルワイフ(Alewife)駅で待ち合わせして初めてお会いしたんですよね。「私すごく方向音痴で、パラレルパーキング(縦列駐車)もできないのでボストン郊外まで来てください」と勝手なことを言って、さびれた駅まで電車で来ていただいちゃった。

亀田 そのときから、こんな勢いでずーっとしゃべりまくっていましたね。

渡辺 一瞬も途切れず(笑)。でも、私は1993年に日本を離れて1995年からアメリカに移住したものだから、その後の日本の音楽業界については浦島太郎というか、浦島花子状態で。だから、私のほうは、亀田さんが有名な音楽プロデューサーさんだってことすら知らなかったんです。

亀田 僕の素性がわからないのに、よくメールアドレスや電話番号を教えてくださいましたね。

渡辺 音楽やってる方だっていうのはうかがったので、音楽やってる人に悪い人はいないって思って、すぐ信用しちゃったんですよ(笑)。でもあとから亀田さんのことをいろいろ知って、「わー、ファンの方に怒られる!」と思いました。

亀田 いやいや(笑)。それで、それで、村上春樹さんの『レキシントンの幽霊』に出てくる町で、歴史的なお屋敷を訪問したり、旦那さんのデイヴィッドさん(※)にお会いしたりしたんですよね。
※マーケティング・ストラテジストのデイヴィッド・ミーアマン・スコット。『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』の共著者としても知られる。

渡辺 楽しかったですね。今回、『どうせなら、楽しく生きよう』を出したことでまたお会いできてうれしいです。本、どうでしたか?

どうせなら、楽しく生きよう
どうせなら、楽しく生きよう

亀田 自分が今まで考えてきたことや、経験したことを、由佳里さんも同じように考えて、経験してきたんだなって、シンパシーを感じました。でもこれって、僕と由佳里さんだけじゃなくて、どなたでも同じなんだろうと思います。

渡辺 もともとは、「成功と幸福」というテーマでいろんな人に取材をして、その内容をまとめようと思っていたんです。でもだんだん、成功というのは一義的なものではないことがわかってきたんですよね。そこで、いろいろな人の心に届くものを書くという原点に立ち返って、成功というテーマに絞らず、生き方全体について書いたのがこの本です。もともと電子書籍で出版して、それを今回紙の書籍として再構成して出版しました。

亀田 この本って、いわゆる自己啓発書ではないんですよね。自己啓発書って、由佳里さんも書いてましたけど、「やればできる! 努力しろ!」という方向か、「無理してがんばらなくていいんだよ」という方向のどっちか。ステレオタイプなものが多いんですよね。この本のすばらしいところは、その「あいだ」があるんだということを、実例をまじえながら丁寧に伝えてくれるところ。すごく共感しました。

渡辺 ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいですね。

亀田 よく、日本の電車に乗ると自己啓発書の広告が貼ってあるんですよ。そこに書いてある「成功する7つの法則」みたいなのを見てると、えーと、ムカつかないでくださいね(笑)、「おれ、これ全部やってるな」って思うんです。というか、僕じゃなくてもみんなやってるんじゃないでしょうか。当たり前のことを、改めて「鍋焼きうどん 750円」「きつねそば 600円」みたいなお品書きのように並べてるだけ。

渡辺 あはは、私の夫も同じようなこと言いますよ(笑)。「早起きする」とか「過去についてくよくよしない」とか、そんなの言われなくても普通にやってるよ、って。

亀田 そうなんですよね。あと僕ね、新聞とか雑誌の占いってあるでしょ、あれ見るんですよ。そうしたら、たいてい「今日の運勢」が良くない(笑)。でもね、そういうとき他の星座のも見るんです。そうしたら、他の人の大して良くないことがわかります。すごくいい人って、12個あるうちの1個か2個。ほとんどの人は「ちょっと残念」な運勢の中で動いてるんですよね。そう考えると、いろいろなことがほがらかに進むんじゃないかなって思います。

心身ともに調子がいい日は「1年に3日」しかない

渡辺 占いと言えば、アメリカの中華料理屋さんでは、食事の後に、必ずおみくじの入ったフォーチュンクッキーが出てくるんですよ。わが家では、お互いのおみくじを見せあって、悪い結果のは捨てて、いい結果のだけをポケットに入れて持ち帰るんです。リサイクルして、毎日いい結果のを見れば、毎日ラッキーでしょ?(笑)

亀田 ステキですねえ。僕がTwitterの「お気に入り」に、好きなアーティストの格言とかをためて、たまに眺めてるのと同じかも。

渡辺 それいいですね!ところで、アメリカ人って、ときどきPrankと呼ぶ「いたずら」を仕掛けるんですよ。あるとき中華料理店で食事をした後、フォーチュンクッキーの中から、うちの娘が書いたおみくじが出てきたんです。こっそり家で手書きしたものを、私たちの注意をそらして上手に中に入れ込んだんですね。夫と私はその用意周到さに「だまされた〜」と大笑い。

亀田 へえ!

渡辺 それで、「ああ、フォーチュン(幸運)は自分でつくればいいんだ」って思ったんです。

亀田 おもしろいですねえ。僕はね、「調子がわるくてあたりまえ」だと思ってるんです。これ、近田春夫さんという、ロッカーとして先輩にあたる方が、僕が大学生のときに「調子悪くてあたりまえ」っていう曲を出したんですよ。僕はデビューが遅くて、25歳ではじめてプロになりました。普通、僕みたいな仕事をしてる人は、10代の頃にもうプロの活動をしてたり、アーティストデビューの経験があったり、もっと早く活躍してるんです。でも僕はいろいろなことが遅くて、なかなかプロになれなかった。悶々としてたときにこの「調子悪くてあたりまえ」って書いてあるビルボードが目に入ってきて、「これだ!」と思ったんです(笑)。

渡辺 ふふふ(笑)。

亀田 人間はそもそも調子わるいものなんだって考えると、それこそ由佳里さんの著書みたいに「どうせなら、楽しく生きよう」って思えますよね。あと僕、大学の社会心理学の授業でバイオリズムについて勉強したんです。そこで、人間は1年のうちに心と体のバイオリズムが両方好調なときって、3日しかないって教わったんですよ。

渡辺 3日しかないの! 今年、いつだったんだろう。

亀田 そうそう、なんか気づかずに過ごしちゃってそうですよね(笑)。こんなふうにもともと調子がわるいと思ってれば、ちょっといいことがあると「ありがたいなあ」って。いちいち「助かった!」と感謝できます。

渡辺 プレゼントをいただいた気分になりますよね。そうか、だから亀田さん、いつもニコニコしてらっしゃるんだ。

亀田 あ、これは、僕の顔のデフォルトがスマイリングフェイスなだけです(笑)。

渡辺 そんな(笑)。やっぱり表情筋を鍛えないと、ニコニコできなくなるから、意識的にニコニコされてきたからだと思いますよ。

亀田 いやー違うと思います(笑)。だって、中学校の朝礼とかの時点で、僕は真剣な顔してるつもりなのに、教頭先生とかから「3年2組、亀田! 何ニヤニヤしてるんだ!」って怒られてましたもん。僕はぜんぜん笑ってるつもりないのに。

渡辺 あー……でも私もそうかも。よく、マジメな顔してるつもりなのに「バカにしてるのか!」とかって怒られてましたねえ。お互いスマイリングフェイス仲間なんですね。自然とその顔になるっていう。亀田さんって、そもそもすごく自然体ですよね。

亀田 ああー、僕の中で「〜ねばならない」っていうことが、あまりないんですよね。

渡辺 はじめてお会いしたときから、そういう感じを受けました。それが私にとって、すごく新鮮だったんです。仕事柄、いろいろな方にお会いしますが、やっぱり有名な方でも構えてらっしゃる方っているので、そういう場合はこっちも距離を置かないと、と思います。でも、亀田さんは最初から、本当にいい方だということが伝わってきました。夫のデイヴィットも、「本当にナチュラルでいい人だよね。気持ちがいい」と言ってましたよ。

亀田 うれしいなあ。ありがとうございます。

(次回へ続く)

この連載について

どうせなら楽しく生きたい人へ

渡辺由佳里 /亀田誠治

洋書のレビュアーであり、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』の訳者としても知られる渡辺由佳里さんが、エッセイ集『どうせなら、楽しく生きよう』という本を出版。有名人から高校生まで、国内外のさまざまな人のエピソードを紹介しながら...もっと読む

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コメント

akinotano73ten なんという俺得の対談 : 2年以上前 replyretweetfavorite

YukariWatanabe 感謝〜。 cakesおもしろいよなぁ。この記事何回も読んでしまう。ついつい本もかってしまった。 2年以上前 replyretweetfavorite

kosh7 cakesおもしろいよなぁ。この記事何回も読んでしまう。ついつい本もかってしまった。 2年以上前 replyretweetfavorite

_KillBurN フォーチュンは自分でつくればいいんだ!かー。いいねコレ: 2年以上前 replyretweetfavorite