早見和真 第一回「オギャアと生まれて死刑台に立つまで徹底して寄り添った」

「整形シンデレラ」とよばれた確定死刑囚、田中幸乃。彼女が犯した最大の罪とは? 早見和真さんが、今年8月に上梓した、長編小説『イノセント・デイズ』が話題を呼んでいます。2008年、デビュー作『ひゃくはち』が、映画化、コミック化されベストセラーとなり、3作目となる『ぼくたちの家族』は、主演に妻夫木聡、池松壮亮を迎え、今年映画化されました。話題作を世に問い続ける早見さんが、今回、孤独で謎に満ちた主人公に寄り添いながら、見つめ続けてきた"本当のこと"について話を伺いました。

補欠選手の目から名門高校野球部の日々を描いた『ひゃくはち』や、母が倒れたことをきっかけに家族それぞれが関係性を考え直していく『ぼくたちの家族』など。徹底的に読みやすく、映像的な描写を積み重ねながら、いま生きているわたしたちの、目の前にあることを誇張も矮小化もせずストレートに、ごまかさず小説に書き継いできたのが早見和真さんのこれまでの仕事だった。

ところが。新作『イノセント・デイズ』は、すこし様相が異なる。

イノセント・デイズ
『イノセント・デイズ』早見和真

死刑囚となった若い女性の生涯を、一冊丸ごと使って描き切っている。達観した態度の彼女、田中幸乃の過去はさまざまな角度から暴かれていくのに、謎めいたものが消えず付きまとう。それゆえか、聖性すら帯びる彼女は、とんでもない怪物なのか、それとも清らかなものを内に抱えた犯罪者なのか。

過去の作品で追い求めてきたテーマも掘り下げつつ、本作では話のスケールが格段にアップしている。この変化はどこからきたのか。小説家として、何らかの脱皮が起こったのか。これまで小説を書くことで追い求めてきたものについても、あらためてご本人の口からぜひ聞いてみたい。

孤独な主人公・田中幸乃のなかに深く潜るまでわからなかった

『イノセント・デイズ』は不思議な読み心地の本です。ひじょうに読みやすいのに、いっこうに話が終わらない感がある。中身がぎゅっと詰まっている印象が強いのです。よくぞこれだけの情報と感情と人の生き方を、一冊に凝縮したものですね。本来なら何冊も書けるだけのネタが、ここに投入されているのでは?

 作品のブラッシュアップにかける時間は人よりきっと多いし、出し惜しみなんてしていられる立場じゃないので。すぐ消されてしまう書き手だと自覚していますから。「この作品に賭ける」という気持ちは毎回、しっかり持って臨んでいるつもりです。

 だから、今回だけ特別というわけじゃないけれど、『イノセント・デイズ』はとくに「ここに賭ける」と強くおもいながら書いていました。これが受け入れられなかったら、書くのをやめるとは言わないまでも、かなりがっかりしていたとおもう。さいわい、広く読んでいただけてうれしいかぎりです。

具体的に書き方の変化などはあったのですか。

 思い返すと、デビュー作の『ひゃくはち』では、自分で作品の中身をまったくコントロールしきれていなかった。書き手としての自分が、物語をどう眺めていけばいいかと考える余裕はまったくなくて、物語のなかへひたすら潜って書いていた。そもそも主人公は自分自身を完全に投影した人物だったし。名門高校野球部で補欠だった自分の体験がそのまま生かされているわけです。デビュー作のやり方としてはありだったと思うのですが。

ひゃくはち (集英社文庫)
『ひゃくはち』

 その反動もあって、2作目以降は、もっとコントロールできるように主人公に対して「引いて見る」ことを自分に課すことにしたんですよ。小説内の人物を冷静に見てみたいという気持ちが強くなって。書いているときのイメージとしては、机に向かっている自分の後頭部を、もうひとりの自分がさらにうしろから見ている感じ。そのかたちをずっと続けていった。

 作家としての成長と言えるのかどうかはわからないけれど、「引いて見る」が、少しずつ身についてきたという実感はありました。でも、今回の『イノセント・デイズ』では、そのやり方を取っ払う必要がありました。デビュー作『ひゃくはち』のときのように、もう一度、人物のなかに溺れながら、深く潜ることに決めたんです。

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山内宏泰

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takikeisuke FBのシェアがうまくできないっぽいのが残念すぎる…(リンクははれるけど記事名が出てこない) 約3年前 replyretweetfavorite