福島の人口流出は10倍誤解されている

福島に関して一般に人が抱くイメージと、実態との落差が最も激しいものに、「福島県からの人口流出」があります。いったん県外に避難した方も、福島に戻るか県外に定住するかの岐路に立たされる中、結果として、震災を境にした人口流出はどの程度のものだったのでしょうか。論を進めていった開沼さんは、いま福島に起こっている問題は福島だけの問題ではないと、喝破します。

もし福島が100人の村なら何人流出したのか?

 私は震災の一年ほど後から講演会やシンポジウムに呼ばれるたびに、オーディエンスに向けて何十回と同じ問いを繰り返してきました。

「震災前に福島県で暮らしていた人のうち、どのくらいの割合の人が震災によって、いま現在県外で暮らしているか?」
 つまり、もう少しわかりやすく言うならば、
「福島が100人の村だったら、何人が震災後に県外で暮らすようになったか」
 という感じになるでしょう。
「福島からの人口流出のイメージ」を聞いているわけです。
 なぜこんなことを問うのか。そして、その答えは。

 前者から明らかにしましょう。
 この「福島からの人口流出のイメージ」を問う理由は明確。そこに大きな誤解があるからです。

 私は、震災直後から、福島の内外を移動しながら研究や講演を続けてきました。その中で様々な点で福島の状況、福島が抱える問題が大きな誤解を受けているように感じていました。
 それは放射線や避難のことはもちろんだし、それ以外にも産業や住民の抱える思い、避難区域の現状もそう。多くの人が「現実の福島」から乖離した誤解にまみれた「イメージ上の福島」を持ち続けている、しかも、「良かれと思って」誤解をしているように多くの場面で感じていました。
 この連載は、まさにそのような現実とイメージとのギャップ、いまでも残る誤解に対して、「福島のことはわからないことばかり」などという思考停止に陥らぬよう「福島のことはこれだけわかってきているんだ」と明確に見通しを立てることを目的としています。

 そして、「福島からの人口流出のイメージ」こそが、その最も象徴的な誤解されているポイントだと考えています。
 もう一度問いますが、
「震災前に福島県で暮らしていた人のうち、どのくらいの割合の人がいま現在県外で暮らしているか?」
 あるいは、
「福島が100人の村だったら、何人が震災後に県外で暮らすようになったか?」
 と問われたら、どのくらいの数字をイメージするでしょうか。

人口流出のイメージと現実の差は10倍

 まずは、実際の世間のイメージを確認しましょう。
 例えば、東京大学・関谷直也特任准教授が2014年3月に全国1779人にインターネット経由で実施した調査では、「福島県では、人口流出が続いていると思う。■%程度流出していると思う。」と質問しています。

 この問いに対して全体の1365名が「流出が続いている」と答え、その予想する平均値は24.38%でした。つまり、日本に暮らす人の8割がたが福島からの人口流出イメージを強くもち、その割合は全人口の4分の1程度に及ぶと見ている結果なわけです。

 こういった数値が全国調査の結果として出てくることに私は驚きません。「世間のイメージはそんなものだろうな」と、これまでの経験から思うからです。
 福島県外で聞くと「10%くらい」「3割」「40%とか?」「いや、60%ぐらいはいっているのではないか」と、様々な答えが帰ってきます。
 2014年7月にも、中国地方の地元紙の新聞記者の方に「どのくらいだと思います?」と聞いたら、「3割ぐらいですか?」と返ってきました。
 それより少し前、2013年5月に、関西地方の地元紙の新聞記者の方に同様に聞いたら「4割だ」と。

 なるほど。彼らは遠くから原発とか福島の担当になって取材をする。とりあえず、福島の人の話を聞こう。彼らにとってのもっとも身近な「福島の人」とは、多くが西日本に避難を余儀なくされている方だったりする。その中でのイメージはこんなものか、と思いました。

 では、あなたの「福島からの人口流出のイメージ」はどのくらいでしょうか。25%? 10%? 60%?

 さて、答えを言いましょう。正解は2.3%程度です。2014年3月の全国調査の答えが約25%であったから、「現実の福島」と「イメージ上の福島」の間には実に10倍の差があるわけです。

避難者は県内に戻りつつある

 詳細を見て行きます。震災前の福島の人口は、ほぼ200万人ほど。一方、福島から震災後に県外に避難している人の数は4.6万人ほど(2014年後半に入ってからは大体この数字で落ち着いています)。
 つまり、単純計算すれば、4.6万人÷200万人×100=2.3%が福島からの流出人口に当たるわけです。

 なお、この「避難者」というのも、各自治体が把握している避難者の数を復興庁などでまとめているものです。自治体が把握しないところで既に福島県内に戻ってきている人もいますし、逆に自治体に言わずに避難している人もいます。

 ただし、自治体に言わないと避難者としての行政サポートが受けづらい状況もありますので、自治体が把握していない避難者が大量にいるとは言いづらい状況もあります。いずれにせよ、この数字も確定したものではないことは理解しておいてください。

 では、この数字は今後どう変化していくのでしょうか。現在の動きを2つの観点で整理しておくといいでしょう。

1)基本的には、震災後、県外に出ていた人も県内に戻りつつある
2)県外に定住することを決めている人も一定数いる

 避難についてはまた別の章で詳しく説明したいと思いますが、避難者やその支援者の方の話を聞いていくと、「福島に戻るか、県外の避難先に定住するのか」の選択におけるこれまでの変化は、以下のように時系列でまとめられるかもしれません。

◎震災直後・1年目:情報の錯綜、避難先自治体や支援団体が活発に、連休・夏休み・冬休み・春休みのたびに避難者が増える
◎2年目~3年目:生活の落ち着き、避難者内でのライフスタイル別のグループの形成、経済負担の重荷、帰還する人と残留する人との間での葛藤
◎3年目以降:避難者支援策の充実・「子ども被災者支援法」などの目標が一定程度達成し共通の目標の喪失、支援策の打ち切りや子どもの進学・進級による帰還、避難者であることへの疲れ、「引きこもる人」

 大きな流れとしては、県外に出ていた人が県内に戻りつつある。これは、様々な統計的を並べてみると2012年の秋ぐらいからの流れです。
 2013年の春先に一時的に県外への人口流出は増えたものの、これ自体は震災前から福島以外でもある「地方からの人口流出」であり、その後は一貫して避難者は帰還しています。

 ただ、一方では、避難者が避難先に定住するという動きもあることに注目すべきでしょう。2014年に入ってから、県外避難者数4万人台半ばでの推移は落ち着いているように見えます。おそらく今後も少しずつ減りながらも、このぐらいで推移するでしょう。

「もう避難先で仕事を見つけてしまった」「家を買った、借りたからしばらくはここに」ということもあります。
 また、「子どもの進学・進級による帰還」もありますが、逆に、「子どもが中学に進学したから、高校受験までは避難先にいようかな」といった話もあるわけですね。

 もちろん、家賃補助など公的支援や避難者支援NPOなどによる支援策は減り続けているので、生活の厳しさはあります。彼らのケアは本来であれば行政等が率先して担うべき部分が大きいですが、十分だとは言えません。

制度から漏れ落ちる「マイノリティ」の県外避難者

 なぜか。
「行政の怠慢だ!」と仰る方もいます。それはその通りです。行政職員の方の中にも真剣にこの問題を考えて行動している人もいますが、力が至っていない部分があるのは事実でしょう。

 ただ、中には「行政はわざと避難者を放置して帰還政策を進めようとしているんだ! 帰還させて安全アピールをしたい。帰還すれば税収も増える。だからそうやっている」などという主張をする方もいますが、必ずしもそういう理由が明確にあるわけではないでしょう。

 仮に、帰還する意志のない人を強制的に帰還させても、それが安全アピールになるかは疑問です。むしろ、ただでさえ行政の姿勢に反発心を持っている人は、その強引さにますます反発し、声高に行政を糾弾することになるだけです。

 帰還すれば県の税収が増えるかというと、地方税は基本的には住民票や法人の登記がある場所に払いますので、住民票・登記簿が福島にある以上は帰還するか否かに関わらず税金は福島に払われます。
 住民票・登記簿を福島に置いたままの人にとっては関係のない話です。

 住民票・登記簿が福島にない、すでに避難先に置いてある場合にはどうか。これは確かに税収が増えるでしょう。ですが、先に触れたとおり、最大限避難した方から税収を確保したとして、県民の3%程度。
 そして、留意しなければならないのは、その多くが母子避難であり、その場合は、夫の収入はいずれにせよ福島に入っているので、帰還しようが定住しようが税収自体は大きな額とはいえません。

 ここで明確にしておくべきなのは、避難している方は「新たなマイノリティ」である、ということです。

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俗流フクシマ論批判

開沼博

311福島第一原発事故から3年以上経ちますが、今フクシマはどうなっているのでしょうか? いまだ具体的な数字や実態に基づかない情緒的な議論が溢れる中、この連載の目的は、フクシマの問題について「論理とデータを通した議論のベースの再設定」す...もっと読む

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rokugatsuyu https://t.co/jNIXOSKg2z 福島に関して一般に人が抱くイメージと、実態との落差が最も激しいものに、「福島県からの人口流出」があります。 ↑ 一部の声ばかり拾っているからこうなる。 つまり偏重。 8ヶ月前 replyretweetfavorite

zebra_masa この1,2年福島関係でよく見かける社会学者の開沼博@kainumahiroshi氏。復興庁委員やら経産省委員やらに収まって、何でこれら原発推進省のお気に入りなのか?色メガネで読むとオモロイかも。 約2年前 replyretweetfavorite

zebra_masa 福島大学の開沼博@kainumahiroshi氏が提唱する福島差別「制度から漏れ落ちるマイノリティの県外避難者」。 約2年前 replyretweetfavorite

yeauchq 開沼氏による福島県の人口流出は2.3%程度との報告は、2014年11月のこちらの記事からです。https://t.co/aFFuyV6b9l これが自然減と社会減を合わせて2015年2月の推計まで入れると、減少率は2倍ほどになります。@discusao 約2年前 replyretweetfavorite