人付き合いに使えるバーテンダーズ・マニュアル
いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。
「バーテンダーズ・マニュアル」というものが存在するのはご存知でしょうか?
有名なものですと「初めてのお客さまには常連客のように接しろ。常連客には初めてのお客さまのように接しろ」というものがあります。
これは、初めてのお客さまには緊張させないように、以前から何度も来ているかのように接した方が良い。逆に何度も来ているお客さまには、お互いに緊張感を保たせるために、まるで初めてのように丁寧に接しなさいというものです。
このバーテンダーズ・マニュアル、接客マニュアルであるように見えて、実はバー以外での他人との付き合い方にも使えるものがたくさんあります。
例えば、「先にお帰りになったお客さまのことを、後に残ったお客さまたちと話してはいけない」という教え。カウンターで色んなお客さま同士で会話が盛り上がることがあります。そして、ある方が「そろそろ終電だから」と先に帰られたとしましょう。すると、たまに誰かがその先に帰られた人のことを軽くネタにすることがあるんです。「やっぱり業界人ってモテるんですね」とか「お金持ってるなあって感じでしたね」とかそんな感じです。
そのノリには絶対にのっかってはいけないんです。ちょっとでも同意を示してしまうと話題はその先に帰った人に固定されるし、ただのネタだったのがやがて揶揄になり、そして悪口になるなんてのはよくあること。そうなる前に、バーテンダーの僕としては、大急ぎで違う話題にするか、あるいは「いない人の話をするのは違反ですよ」と笑いながら言うかです。
あるいは、バーテンダーをしていると、新しいお店の味の評判や、音楽や本や映画といった作品の評判を、お客さまから「あれ、どうなの?」と質問されることがあります。そういう場合って、実はお客さまはだいたい「少しだけ悪い評判」を期待しています。
bar bossaは出版業界のお客様が多いので、「あの作家の新しい小説の評判ってどう?」って質問している場合は、ほとんどがその方がその業界のライバル的な位置にいて、その評判を気にしているんです。ですから「すごく売れてるらしいけど、内容は空っぽらしいですよ」とか「新しい試みなんですけどねえ。どうも残念ながら外してるみたいですよ」といったギリギリのネガティブな答えを期待しています。もちろん、そんな誘いにのってはいけません。
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