人生はお金と時間と制御資源のマネジメントである

我慢する力は有限である? お金と時間と制御資源は互いに交換可能! データサイエンティストはいないほうが健全? 『データの見えざる手』の著者・矢野和男さんと、統計家の西内啓さんとの対談第2回も、人の行動を変えることを科学していきます。
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エネルギー保存則は「我慢」にも適用される?

矢野和男(以下、矢野) 私はもともと大学で物理学を専攻していました。そして、実は妻も物理学出身で博士号を持ってるんです。

西内啓(以下、西内) お二人ともですか、すごいですね。

矢野 だからこそ、西内さんの『統計学が最強の学問である』というご著書のタイトルを見た時に、2人で「いや、物理学が最強だろう!」と(笑)。

西内 「なんだ西内、このやろう」と思われたわけですね(笑)。

矢野 いや、おっしゃりたいことはすごくよくわかったんですけどね(笑)。統計学と物理学は、まだまだ融合したり、補いあったりできる部分があると思っています。もともとはけっこう関係が深かったんですよね。例えば、シミュレーションや数値計算を乱数を使ってやる「モンテカルロ法」なんかは、もとは物理からきて統計でも使われるようになったり。

西内 データ分析でよく使われる最小二乗法は、物理学者でもあり磁石の強さの単位として名前が残っているガウスが発明したといわれているんですよね。

矢野 そうそう、そういったところでは非常に関係が深い。統計学と物理学の違いで言うと、統計学は「資源」を前提にしないですよね。物理学は常に、エネルギー、粒子数など、資源の保存を拠り所にして考えていきます。逆にそれ以外は全部自由でないと、あらゆる万物に適用できないので。

西内 それがじつは最近、統計を使う心理学で今一番注目を集めているのは「制御資源」という概念なんですよ。制御資源というのは、平たく言うと「我慢する力は有限だ」という考え方です。

矢野 ああ、なるほど。

西内 例えば、ある実験で、お腹をすかせた状態の大学生を2グループに分けて、どちらの前にもいい匂いのするチョコチップクッキーとハツカダイコンが置かれているという状況をつくります。一方はクッキーを食べていいけれど、もう一方はダイコンしか食べてはいけない。途中で研究者はわざと部屋を出たのですが、ダイコンのグループはクッキーの誘惑に負けることなく、ダイコンだけを食べました。
 そしてそのあとどちらのグループにも、パズルをやらせるんです。これはどうやっても解けない仕組みになっていて、どれだけの時間チャレンジしていられるかを測ったんですね。そうしたら、我慢しなかった、つまりチョコチップクッキーを食べた学生は課題に19分を費やしました。ところが、ダイコンしか食べられなかった学生は、わずか8分しかがんばれなかったんです。

矢野 我慢の力を、クッキーを食べないことに使っちゃったんですね。

西内 そうなんです。こういった実験から、意思決定をする、我慢をするなどのセルフコントロールの資源は、有限なのではないかという説が有力視されてきています。血糖値と関係があるのではないかという研究もされているんですけどね。これまで禁煙やダイエットなどで、いろいろ行動を変えようとしてもうまくいかなかった原因は、実は資源が有限だったからかもしれない。この現象をどう説明するかが、いま行動科学でアツいトピックになってるんですよ。

矢野 おもしろいですね。

西内 『データの見えざる手』では、ウエラブルセンサで収集した腕の動きのデータから、1日の活動量は1分あたり何回動いたか、という運動量によってきっちり配分されているという結果が紹介されていましたよね。

矢野 はい。1分間に60回以下の活動は1日の活動時間のうちの2分の1、1分間に60~120回の活動は4分の1、120~180回の活動は8分の1の時間と、きれいに割り当てが決まっています。「歩く」などの激しい動きは、ウェブの閲覧などの運動量の少ない行動より、多く時間をとることはできません。

西内 それを読んで、じゃあ何かの行動を変えるときには、この割合を変えないような部分をつついたほうがいいだろうなと思ったんです。ダイエットにしても、「毎日走る」という目標を立てたところで、この割り当て時間は変えられないわけですもんね。他を削ることになる。

矢野 そうですね。そういう工夫は十分にありえますね。

人生は「お金」と「時間」と「制御資源」のマネジメントだ

矢野 『統計学は最強の学問である』は統計学の本ですが、統計学を利用して、利益向上にどうつなげるかということをしっかり書かれていましたよね。私も本に「ビッグデータで儲けるための3原則」という項を書きました。学問的な本で、利益や儲けについて書かれているものは少ない気がします。お金のことを出すと「それは経済の話だから別でしょう」と言われたりするんですよね。

西内 そこは意識した部分ですね。ビジネスで統計学を使うなら、儲けにつながっていないと意味がないですから。

矢野 それこそ、お金は現実のさまざまな事象に関係する「資源」なので、どんな専門分野でも出てきておかしくないと私は思うんですけどね。

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どっちが最強!? 物理学VS統計学—矢野和男×西内啓 対談

矢野和男 /西内啓

人間の行動を変えるには、さてどうしたらいいものか? 経済学者は「インセンティブ」。社会学者は「まわりとの関係性」。政治学者は「権力」。さて、物理学者と統計学者は? ウエアラブルセンサによって身体活動のデータ分析し、人間を支配する隠れた...もっと読む

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yaiask 『データの見えざる手』の矢野さんと『統計学が最強の学問である』の西内さんの対談、第2回です。セルフコントロールの力は有限だという「制御資源」の考え方っておもしろいですよね→ 約4年前 replyretweetfavorite