タモリを受け入れた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代

タモリの足跡を戦後史とともに振り返る「タモリの地図」、今回は高度成長期を経て、日本が飛躍的に成長を遂げた時代のお話です。1950年代から活躍した「異端」の芸人・トニー谷との比較から、タモリが受け入れられたのはどのような時代だったのかを読み解きます。

終戦直後に生まれ古希を迎えた稀代の司会者の半生と、 敗戦から70年が経過した日本。
双方を重ね合わせることで、 あらためて戦後ニッポンの歩みを 検証・考察した、新感覚現代史!
まったくあたらしいタモリ本! タモリとは「日本の戦後」そのものだった!

タモリと戦後ニッポン(講談社現代新書)

34歳の地図—タモリとアメリカの影 4

YMO・スネークマンショーとタモリの共通性

1980年秋、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)は前年に続き欧米各地をまわるワールドツアーを行なった。11月7日の米ロサンゼルスのチャップリン・メモリアル・スタジオでの公演前には、ラジオ番組『タモリのオールナイトニッポン』に国際電話でメンバーが出演している。タモリは3枚のレコードをYMOと同じアルファレコードのAスタジオで収録しているが、このときのYMOの出演はそうした関係から実現したのだろうか。

もともとYMOは、アメリカのミュージシャン、マーティン・デニーの楽曲「ファイヤー・クラッカー」をシンセサイザーによるディスコサウンドでカバーして、世界中でヒットをめざそうと、細野晴臣が坂本龍一と高橋幸宏を誘って結成された。デニーはエキゾチック・サウンドの大家と呼ばれ、「ファイヤー・クラッカー」も日本をイメージした曲調を持つ。それを日本人が電子楽器でカバーしたところに、ある種の諧謔が込められていた。

ちょうど日本が、従来の東洋的なイメージに加えて、半導体や自動車といったテクノロジーのイメージで欧米からとらえられるようになっていた時期である。1979年には、アメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲルが『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を著し、アメリカとの比較から日本が脱工業社会に的確に適応していることを指摘したその内容は、日本でも反響を呼んだ。一方で、日本と欧米諸国のあいだで貿易摩擦も問題化し、EC(現・EU)の対日戦略秘密文書では「日本人はウサギ小屋とあまり変わらない家に住む仕事中毒者」と書かれたりもした(ただし、フランス語で言うウサギ小屋=cage a lapinsは「画一的な狭い貸間からなる建物」という意味の慣用句であり、べつに日本人を揶揄するためにつくられた言葉ではないらしい)。

YMOは、そうした欧米人の日本に対するイメージを逆手にとって、世界進出をはかろうとしていたのである。「ファイヤー・クラッカー」を収録した1st.アルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』のアメリカ盤のジャケットにも、芸者の頭から電気コードが露出したイラストが用いられていた。


Yellow Magic Orchestra(US)

欧米人から見た、現実とはどこかズレた日本(人)像というのは、初期タモリの芸であるハナモゲラ語とも通じるところがある。この手の誤った日本像は、少し前なら当の日本人には受け入れがたいものだった。たとえば1955年に、女優の山口淑子がシャーリー・ヤマグチの名で出演し、日本でも大規模なロケが行なわれたハリウッド映画『東京暗黒街・竹の家』は、ゲイシャ、ヤクザといったステレオタイプな描写から日本公開時には「国辱映画」とも呼ばれた。だが、日本経済が欧米を脅かすまでに成長した1970年代後半にあって、そうしたイメージを自ら楽しむ余裕が日本人にも生まれつつあった。タモリの芸がウケ、YMOのコンセプトが成立した背景は、そういったところにも求められるはずだ。

YMOは1980年のワールドツアーの数カ月前にアルバム『増殖』をリリースした。このアルバムでは曲のあいまにスネークマンショーのコントが挿入されていた。いずれもスネークマンショーがラジオで演じたなかからピックアップしたものである。そこでは、ジャンキーとガサ入れに来た警官の噛みあわない会話、外国首脳との会談で英語がわからず適当にあいづちを打つ日本の首相、中国の観衆を前にダジャレを披露する落語家など、外国人と日本人の会話のズレも含め、すべてディスコミュニケーションがテーマとなっていた。

スネークマンショーは桑原茂一・小林克也・伊武雅刀によるユニットだが、ラジオが始まってからしばらくは、その正体は隠された。スネークマンというのは、アメリカの伝説的なDJ、ウルフマン・ジャックにならって桑原が小林(巳年だった)につけたキャラクター名であり、のちには小林が咲坂守、伊武が畠山桃内を名乗ってコントを演じた。

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この連載がついに書籍化!「森田一義」はいかにして「タモリ」になったのか。関係者への追加取材や大幅加筆でその足跡をさらに浮き彫りにします!

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タモリの地図—森田一義と歩く戦後史

近藤正高

2014年3月31日、『笑っていいとも!』が32年間の歴史に幕を下ろしました。約32年間、毎日テレビに出続け今や国民的タレントになったタモリ。そんな「昼の顔」だけでなく、アングラ芸で身を起こし、深夜番組『タモリ倶楽部』で披露する「夜の...もっと読む

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コメント

meganex3 この連載毎回面白い。タモリさんと戦後文化史の組み合わせ…初回見逃したけどヨルタモリ見ねば… https://t.co/sY5Xq6utBA 3年以上前 replyretweetfavorite

nz_mk この連載は毎回面白い。 あっという間に読んじゃう。" https://t.co/v5snyGR2cm 3年以上前 replyretweetfavorite

kamawanujp なるほどトニー谷。 > 3年以上前 replyretweetfavorite