Facebookが吊り上げた男の最低基準
藤沢数希(以下、藤沢) まず、第1回でお話したように、人間のプリミティブな感情は、モニターの中の人間関係と、現実の人間関係を区別できないので、メディアやネットなどの芸能人たちを見て、ルックスやお金に対する基準が上がっています。
—— なるほど。女性にも、男性の無料ポルノ動画のような現象が起こっているのですね。
藤沢 そうですね。また、図を見ていただければわかるように、実際にモテ上位の女性たちが付き合っている男性は、上位2割のモテ男性たちですから、彼女たちの視界の中には、この2割のモテ男性しか入っていないんです。つまり、彼女たちの「ふつう」というのは、全体の平均ではなく、あくまでこの2割のモテ男性たちの平均なわけです。
—— なるほど。
藤沢 そこまで基準が上がってしまうと、結婚も簡単にはできません。現代の女の人たちは、もっといい人が現れる、私はこの程度の男と妥協すべきではないと思い、子供も作らず、ずっと待ち続けます。もう、ハートのエースは出てこないのに。それほど遠くない未来の日本では、都内の分譲マンションでエルメスのバーキンといっしょにミイラ化してしまった、独身女性の死体が発見されるような事件は珍しくなくなるでしょうね。
——(女性編集者) 女性たちの間では、最近恋人になれないという悩みが増えていると思います。それは、定期的に会う男性はいるけれども、彼氏という関係じゃないというもの。女性誌などの恋愛相談でも、「セフレから抜け出せない」という悩みが多い。つまり、いい感じになってセックスはするんだけれど、「付き合おう」と言ってもらえない。それとなく水を向けても、のらりくらりとかわされる、という悩みが多いです。
藤沢 これも後で説明しますが、全体の2割もいないモテ男性が、4割のモテ女性と付き合っているのですから、やはりどうしてもそうしたモテ男性と付き合う女性というのはワンオブゼムになってしまいがちです。しかし、こうした女性も自分のプライドや見栄の張り合い競争のために、非モテ男性に目を向けるわけにはいかないのですから、しょうがありません。
—— しかし、IT革命以前にもテレビはあったわけですから、セレブを見て、女性の基準が吊り上がるのは、もっと昔からあったはずですよね。
藤沢 良い質問ですね。これもやはりIT革命が非常に重要な役割を担っているのです。確かに、昔もセレブはたくさんいましたが、そうしたセレブの生活は、テレビを通してしか知り得なかったわけです。いくら人間のプリミティブな感情が、テレビの中の人間関係と実際の人間関係を上手く区別できないと言っても、そこはやはり遅い論理的な思考回路のほうが、それは違う世界の話ですよ、とかなり強い自制心を働かせてくれるはずです。
単に若くて綺麗な女の裸を見ればすぐに欲情する男性の脳と違い、女性は相手の社会性や自分との関係性などの多くのことを分析しながら恋愛感情を発火させるので、この点でも、女性の脳は簡単にテレビの世界だけで、ズレていくことはなかったでしょう。
XVIDEOSなどの無料ポルノ動画サイトの影響ですっかり感覚がズレてしまって、死ぬまでオナニーし続けるサルとなってしまった現代の非モテ男性たち——驚くことに彼らは決してマイノリティではなく、すでにマジョリティとも言える存在になっています——より、女性は現実的な視点を持ちえるのです。
—— それでは、そんな女性たちが男を見る判断基準が、なぜこれほど現実と乖離してしまったのでしょうか?
藤沢 それがやはりIT革命なのです。より具体的に言えば、Facebookを代表とするSNSの隆盛です。
—— もっとくわしく説明してもらえませんか?
藤沢 人間の脳は、旧石器時代までにほぼ完全にいまのような形、機能になり、それ以来、ほとんど進化していません。旧石器時代は、数十人単位の集団で狩猟採集生活をしており、そうした環境に人間の脳は適応しています。
—— それとFacebookがどのように関係しているのですか?
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