サボりたいと思ったことは一度もなかった【前編】

『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』『恋のから騒ぎ』『踊るさんま御殿』などで知られる名物プロデューサー・菅賢治さんをインタビューしました。今年3月に26年勤めた日本テレビを退職し、退職後初めての書籍『笑う仕事術』を上梓した菅さんが語るテレビ業界の変化とは? そしてテレビが担うべき役割とは?(構成:おぐらりゅうじ

意見は新人ADにこそ聞く

— 菅さんが日本テレビを退職されてからの初めての本『笑う仕事術』(ワニブックス)拝読しました。菅さんはテレビ業界に入る前、学生時代にバンドのボーカルをやっていて、メジャーデビューも決まりかけていたとか。

笑う仕事術 (ワニブックスPLUS新書)
笑う仕事術 (ワニブックスPLUS新書)

菅賢治(以下、菅) そうですね。事務所と契約かな?ぐらいのところまではいきました。でも、いざ音楽を仕事にするとなったら、週に2曲3曲は作らないといけないと言われて、それが楽しくなかったし、できなかったし、単純に才能ないなって。音楽の道を諦めたのは大きな挫折でした。

— それで音楽以外の道を考えたときに思い浮かんだのが、テレビマンだったと。

 1960年代から放送していた『シャボン玉ホリデー』という番組が大好きで、その番組の演出家だった秋元近史さんに弟子入りしたいと思ったんです。それで最初は別の制作会社にバイトみたいな形で入って、当時秋元さんがいらした日本テレビエンタープライズ(現・日テレアックスオン)に行きたいと日本テレビの人へ言いまわっていました。その後、日本テレビエンタープライズに入れてもらったんですけど、ちょうど入れ違いで秋元さんが亡くなってしまったので、実際に弟子入りはしていないんですけどね。

— 最近は演出家もテレビに出たりしてますが、当時は完全な裏方ですよね。演出家に弟子入りって多かったんですか?

 いやいや、僕らのころも全然なかったですよ。今もそうですが、面接を受ければ誰でも入れる、みたいな業界でしたから。ただ、中に入るとやっぱり徒弟制度がまだあった時代で、たとえば僕が新人として初めて和田アキ子さんにお会いしたときは、「あんた誰の弟子なん?」って言われました。新人ディレクターは誰の弟子なのかっていうのが重要で、師匠の信頼があって初めて次の仕事ができる。そういう時代でしたね。

— 日本大学藝術学部の放送学科をご卒業されていますが、当時から映像を作ったりアイデアを考えたりするのが得意だったとか?

 いやあ、全然。そんなおもしろい人間じゃなかったです。でも見るくらいなら作るほうがおもしろいと思っていたんですが、映画はやる気がさらさらなかった。というか、あれは別の才能が必要だと思いました。ただ、テレビは唯一もしかしたらできるかもしれないって思ったんです。

— なにかを始めるときに、そういう思い込みは大事です。

菅 ただ、学生時代に「おもしろいやつ」だったかどうかってあんまり関係ないんですけどね。

— でも、これは本にも書かれていたことですが、菅さんは会議の時に新人の声をすごく参考にされていたりもするんですよね。

 だってそうでしょう。新人のADが萎縮して何も発言できない会議なんて、最もダメな会議ですよ。あとアイデアが出ないのに2時間も3時間もダラダラと作家の無駄話が続き、早く帰りたくてしょうがないADが舌打ちするような会議もダメです。

— それはテレビに限らず、いろいろな会議に言えることですね。

 番組の総合演出をしている社員なんかには、「おまえらがいくらおもしろいと思っていても、そんなのはたいしたことじゃない。たしかに今は番組がヒットしているかもしれないけど、上の人間だけで考えててコケたらどうするんだ?」と厳しく言っています。要は存続させるにせよ、新しい番組をつくるにせよ、ヒットしている番組を真っ向から否定するような新しい意見は常に必要で、そのためには新人の豊かな感性に頼るのが一番なんですよ。

テレビ業界に入ってくる人たちの変化

 僕らのときは同期が70人くらいで、全員がテレビで天下を獲ることしか考えてなかった。だからまわりはすべてライバルで、同じ番組でも仕事は取り合い、先輩は自分の仕事を後輩にはやらせないのが当たり前。だから怠け者の先輩を持つと得なんです。

— 仕事が取り合いになるのは、勢いのある証拠ですよね。基本サボりたくてしょうがない、面倒な仕事はすべて後輩に押し付ける、そういう会社もなかにはありますから。

 当時はサボりたいなんて思ったこと一度もなかったですし、万が一先輩から仕事を振られたりなんかしたら大喜びですよ。でも今はそういう新人はいませんね。

— 今この時代にテレビ制作会社のADを目指す若者って、どういう感じなんでしょうか? 残業代は出ないし、寝れないし、帰れないし、怒鳴られるし、キツい環境であることはもうみんな知っていますよね。

 うーん、一概には言えませんが、最近の制作会社に入ってくる新人は、アルバイトのような感覚で志望している子も多いかもしれません。もしくは、タレントとご飯に行ったり、芸人さんと仲良くできる、みたいな、テレビ業界を勘違いして入ってくる子もいますね(笑)。

— では、逆に、いい仕事をする人の特徴はありますか?

 でも、テレビ業界に入れば楽して金儲けできて、そのうえアイドルと結婚できるかもしれないと本気で思っているやつが、実はものすごくいい仕事をすることもあるんですよ。本気で勘違いしてるやつなら大歓迎(笑)。

— なるほど(笑)。でもテレビにそういった夢を抱く若者は少なくなってきているでしょうね。

 これは僕らの責任でもありますが、テレビ業界にあまり夢がなくなっているのはたしかです。昔は年間に何千万円も稼ぐフリーのディレクターがゴロゴロいて、当たり前のようにフェラーリに乗ってるスタッフがいました。今はほとんど見なくなっちゃったなあ。

テレビ局に入るか、制作会社に入るか

— 菅さんは日本テレビの新卒採用の面接官も長く務めていらっしゃいましたが、10年くらい前は、テレビ局を受ける学生のなかには、テレビが好きというよりも、いわゆる大手企業の1つとして捉えて、商社や金融と平行して志望する傾向がありましたよね。

 以前ある学生に「日本テレビ落ちたらどうするの?」と聞いたことがあって、そうしたら「大手保険会社と外資系金融に内定もらってるんで、迷ってます」って。思わず「いやいや、そういう会社と迷っている人はうちに来ても活躍できないよ」って言ってしまいましたけど。でも今はそういう会社と一緒に受ける学生もピタッといなくなりましたね。

— かつての、発想も仕事も破天荒なテレビマンではなく、いまや高学歴で優秀で真面目なおとなしい新人のほうが多いイメージがあります。

 高学歴化も進みましたね。もう何年も前から日本テレビのエントリーシートは大学名が黒く塗りつぶされていて、分からないようになっているんです。でも結局あとで採用された学生の出身大学を見ると、やっぱり東大とかがやたら多い。どんなにいい大学を出ても就職が難しい時代なので、なんとかテレビ局にでも引っかかればと思っている学生もたくさんいて、そういう子たちはとにかく真面目で一生懸命。でもそれが個性的な番組作りに役立つかといったら、そうとは限らないんですよね。

— 今後テレビ制作をしたいって思う人たちは、制作会社とテレビ局どっちに入るべきだと思いますか?

 スタートが制作会社だったとしても、売れっ子ディレクターになれば、最終的にはそっちのほうが断然収入は増えます。テレビ局の社員は何十年も勤めてどんなにヒット番組を連発しても、サラリーマンである以上、限界がある。それに局だと異動もあって、ずっと制作の現場にはいられませんし。何が言いたいかというと、本当に優秀で実力があれば、どこでも通用するっていうことです。

(後編は10月28日掲載予定)

この連載について

テレビプロデューサー・菅賢治インタビュー

菅賢治

『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』『恋のから騒ぎ』『踊るさんま御殿』などで知られる名物プロデューサー・菅賢治さんをインタビューしました。今年3月に26年務めた日本テレビを退職し、退職後初めての書籍『笑う仕事術』を上梓した菅さ...もっと読む

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コメント

tanayuki 「なんとかテレビ局にでも引っかかればと思っている学生もたくさんいて、そういう子たちはとにかく真面目で一生懸命。でもそれが個性的な番組作りに役立つかといったら、そうとは限らないんですよね」 約4年前 replyretweetfavorite

8maki "当時は 約4年前 replyretweetfavorite

8maki "僕らのときは同期が70人くらいで、全員が 約4年前 replyretweetfavorite

manaview 黒光りガースーさんや 約4年前 replyretweetfavorite