金持ちになりたい。そう願いつつも収入は増えず、消費の無限地獄にハマっていく。今、世帯年収1000万円前後の世帯で、家計が火の車というケースが増えている。
1000万円といえば、平均世帯年収のおよそ倍だ。では、なぜ、家計が逼迫してしまうのか。
フィナンシャルプランナーで、1万5000件以上の世帯の相談に乗ってきた、家計の見直し相談センターの藤川太代表によると、「リーマンショック後、状況が変わった」のだという。
バブル経済が崩壊しても、特権階級のように君臨し、年収が上がり続けていた大企業で働く層にも、いよいよリストラや減収の波が押し寄せているのだ。
その一方で、自分たちのことを実際以上に金持ちだと誤解している、あるいは以前のように給料が増え続けると誤信しているから始末が悪い。さらには、クレジットカードや各種のローンなど、その誤解や誤信を加速させる金融サービスも氾濫している。
なまじ、少しのカネがあるだけに、負の消費スパイラルに陥るのだ。実際に、図3‐2のように、年収400万円世帯よりも1000万円以上世帯のほうが、支出に対して食費などの割合が高い。一般的に支出の中で食費の割合が高いのは発展途上国の家庭。日本のプチ富裕層が同じ傾向にあるのはなんとも皮肉なことだ。
プチ富裕層の中でも、特に危ないのが、40代半ばのバブル世代だ。バブル時代に派手な消費を経験している上に、妻が専業主婦であることも多い。夫が減収になれば、家計はすぐ逼迫する。「2020年ごろまでに、7割ほどの世帯が老後を心配し、いっせいに焦り始めるのでは」と藤川氏は警告する。
雑誌やブログをまねし
次々消費
大手新聞社で働く44歳の五味正之さん(仮名)の年収は、1200万円。平均年収の倍を軽く上回る額だが、五味さんの預金通帳の残高に100万円以上の金額が記載されたことはない。
五味さんの妻は、女性雑誌やブログを頻繁にチェックしている。そこで提案されているライフスタイルや紹介されるグッズをすぐにまねしたがるという。一方の五味さんも住宅ローンの支払いはするものの、あまり貯金はせず、飲食費や趣味にお金を使い込んでいるから、文句は言えない。
年収1000万円クラスのプチ富裕層に人気のグッズは、驚くほど似通っている(次項「そろい始めたら危険信号? カツカツ家計に典型10商品」参照)。そして、その一つひとつは驚くほど高額というわけではない。しかし、ライフスタイルはグッズ単品では成立しないから、言ってみれば、浅く広くそろえる必要があり、知らずしらずのうち出費がかさんでいく。
周囲に目を向ければ、似たような消費スタイルを楽しんでいる。口コミの評判を聞けば、またそれが欲しくなる。
さらには、人目も気になるし、見栄も手伝うから、一度、憧れのライフスタイルに足を踏み入れると、そのレベルを下げることは難しくなる。その上、新たな人気商品は次から次へと登場する。
こうして、常に毎月の収支はトントンか、あるいはマイナスに陥り、ボーナス時にためたお金を取り崩す……というスパイラルに陥ってしまうのだ。
藤川氏によると、破綻しがちなプチ富裕層には、共通する特徴があるという。見栄っ張りで他人の目ばかりを気にする、購入の際に比較検討をしない。その上、「いい家」「いい車」「いい教育」と、ちょっといいモノやサービスには目がない。
実はこの“見栄っ張り消費”が窮地を招いていることに無自覚なプチ富裕層は多い。というのも、繰り返しになるが、一つひとつのモノやサービスは何十万円もするものではなく、数千円から、せいぜい数万円のものが多いからだ。
取材で出会った世帯年収が1000万円を超えるある女性は「かなり家計を切り詰めている」と自信を見せていた。ところが、詳しく話を聞くと、「カツカツ家計に典型10商品」で紹介しているプチ富裕層に共通するグッズのほとんどを所有していた。
そのことを指摘すると、「確かに、いくつかの調理器具は友達が持っていてオシャレと思って買ったけど、一度使っただけで、今はどれもしまってある……。一つひとつはそれほど高くないと思っていた。それなのに、夫には、趣味の自転車を売ってくれと迫ってしまい、申し訳ないことをした」と肩を落としていた。
藤川氏は、相談に来るプチ富裕層に、消費をやめるよう説得するが、聞いてもらえないことが多い。夫はほとんど使わないのに車を売却できない、高い年会費のクレジットカードにステータスを感じて手放せない。それにもかかわらず、専業主婦の妻は、パートとして働きに出ることを拒否する。そんな夫婦が多いというのだ。仕方なく、「あなたは、そんなにお金持ちじゃないですよ」とキツく諭すと、はっとした顔でようやく気付くという人もいるほどだ。
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