無秩序な街を表現する試み
—— 前作の映画「まほろ駅前多田便利軒」の時のとある対談で岸田さんがおっしゃっていたのを読んだのですが、お二人は作業を終えた後に飲みに行って、岸田さんは大森さんのトイレに行く後ろ姿がすごいかっこいいなと思ったそうですね。
岸田繁(以下、岸田) そんなこと話してましたか。飲みにいった記憶はすごい鮮明にあって。すごい楽しかったというその記憶はすごい。
—— お二人でどんな話をされたんですか?
大森立嗣(以下、大森) 大人になって、真面目な話をね。割りと色んなことをしゃべったかなあ。
—— テレビシリーズを間に挟んでということになりますが、今回の映画「まほろ駅前狂騒曲」は再び大森監督が撮り、岸田さんが音楽を担当されました。この二度目の依頼が来たとき、岸田さんまずどんな風に思われましたか?
岸田 いや、とにかく光栄で。前やったのを個人的には気に入ってたんです。もう一回映画があるらしいという話はなんとなく聞いていて、これで僕に依頼がなかったら前のが気に入れられてなかったってことだなあって思ってました。だからすごいうれしかったです。
—— 監督は二作目を撮ると決まってどう思われましたか?
大森 音楽は最初から岸田くんでって、俺はプロデューサーに話してたんです。ほら、テレビ挟んでるでしょう。
—— はい、そうですね。
大森 監督は俺じゃなくて、音楽も違う人だったわけですよ。その時、俺はテレビでオンエアされるのであれば監督が自分じゃなくてもいいと思ったけど、音楽は岸田くんじゃないの? というちょっと半分憤りみたいなものがあって。テレビの音楽が悪いわけじゃないけどね。
岸田 いやいや、そっくりそのままお返ししますけども(笑)。まあ本当光栄な話です。すごいやりたかったんで。割と忙しい時だったんですけど、無理をしてでも絶対やりたいって思いましたね。
—— そのやりたいっていう思いはこのシリーズに対する気持ちですか? それとも映画音楽を作ることの喜びでしょうか。
岸田 まず映画の音楽を作るのが仕事の中で一番楽しいことなんです。映画の音楽だったら何でもやりたいくらいで。その中でも大森さんの「まほろ」に関しては、今、続編をやらしていただいて思うんですけど、僕は一人の性格俳優みたいな感じで、ずっと甘い汁を吸える役をやらせていただいているような感じがするんです。
—— なるほど、性格俳優ですか。
岸田 自分の色をちゃんと出しながら、それでも過剰に出しすぎることもなくというところで、すごく楽しくできるんで。性格俳優という言い方が合ってるのかわからないですけど。
—— いや、すごくわかりやすいです。
岸田 他の場所では絶対出せんもんが、この作品のために鳴ってるというか。いやそれは他には出さんということでもあるというか……。言ってることようわからんですいません。
—— いえ、そんなことはないです。
岸田 まあでも、そんな重いもんじゃないんです。本当に映画の音楽を作るのが好きだし、大森さんのこだわりとかカラーっていうのと、僕の音楽の相性がすごくいいと思ってるんです。それがもう一回出来たっていうのはうれしい。
—— 監督はいかがですか?
大森 うーん。その話はすごいうれしいです。けど、今回は、はめるところはきちっとはめてもらってるんだけど、結構ぶっ飛んでるところがあって。
岸田 すいません(笑)。
大森 だから最初に聞いたときは一瞬ドキっとしたんですよね。俺、これに対応できるかな、映像にうまくはめられるかなって思うところもあって。ただ、そういう真剣勝負をしようってところもすごくある。岸田くんとやるって、たぶんそういうことなのかなっていうのがあるというか。
—— 前作よりもドキッとするところが多かったということですか?
大森 前作でもあったけど、今回はもっと多かった。普通の映画の音楽の入れ方だとうまくできない部分とかがあって。でもそう言いつつ、自分でもこういう内容の映画なんだけど、できるだけ無秩序にしたいっていう気分もすごいあってね。それは「まほろ」っていう街がそういうところでもあるからなんだけど。だいぶチャレンジしたなっていう。
岸田 はは(笑)。
大森 いい意味でチャレンジできてよかったなっていうのはすごいあるんですよね。攻めてんなっていう感じが。俺の理解っていうか、感覚を超えてくる。
岸田 申し訳ないです(笑)。
「ペーソシー」な感じがかっこいい
—— 観ている側からすると映画と音楽がとても重なってるというか、「ペーソス」ですごく強くつながってる気がしました。お二人それぞれのお仕事に対してもペーソスを感じるのですが。
岸田 ペーソスってなんなんですかね?
大森 俺もわかんない。
—— 哀愁の上にユーモアがのっかってる感じっていうか……。男は背中で語るみたいなこととはちょっと違う感じの哀愁ですかね。
岸田 赤塚不二夫さん的な感じ?
—— 赤塚不二夫さん的な感じもあります。
岸田 バカボンのパパみたいな。
大森 バカボンのパパの、ときどきある感じだ。
—— そうです、そうです!
大森 笑ってる感じが哀しくみえちゃう感じなのかな。
—— はいそうだと思います。そういう大人っぽい印象でお二人はすごくつながってるっていうか。
大森 バカボン大好きだからね。
岸田 僕も好きです。かっこいい大人っていろいろいると思うんですが、おもしろいおじさんって、なんかわからんけどもかっこいいじゃないですか。そう、映画でいうとクリント・イーストウッドが一番好きなんです。ちょっと別の映画の話になっちゃうけど、彼、「グラン・トリノ」って映画撮ったじゃないですか。
—— イーストウッドが、一人暮らしの頑固な老人を演じるヒューマンドラマですね。
岸田 一応感動する話やし、いい映画だったんですけど。最後に、ラストのシーンでカラオケみたいに歌ってるじゃないですか。そういうのとかアホっぽいんですけど、かわいいおじいさんの色が、硬派な話の中から出てるというか。おっしゃってることとは違うかもしれないですけど、僕も単純に大森さんのファンなので、映画から出てくるものとか、「まほろ」の中で大森さんが色んな役者さんとか風景なんかに投影してるものに、すごく……ペ……。
—— ペーソスです、最初から哀愁とユーモアって言えばよかったですね(笑)。
岸田 ペーソシーな感じがある。
—— ペーソシー(笑)。そう、かっこいいんですよ!
岸田 うん。なんか、いいなと思いました。
大森 そうっすかね(笑)。
—— 今、「かっこいい大人」って言葉が出てきましたが、「かっこいい大人」ってどういう人だと思われますか?
大森 かっこいいか……。そういうことは考えてないな、最近。なんなんだろうね。でもなんかやっぱ自分を不安定に置いてる人は魅力的に感じるかな。そこで疑いがない人はダサイって思っちゃう。やっぱりそういうところにいたいなっていう風には思うよね。
—— 岸田さんはいかがですか?
岸田 そうですねえ。でも、そう考えたらイーストウッドとかかっこいいと、作品の中では思うんです。この映画の中には、大森さんは出てないけど、かっこいいなってすごい思うし。出てる役者さんもかっこいいなって思う。でも。俺かっこいいって思うのって、こう、もっと富士山かっこいいとか、そういうの多いですね。
—— なるほど。
岸田 あとは行動とかがかっこいいとか。人じゃない方が、かっこいいって思いやすいかもしれないです。
大森 あと、やっぱりかっこつけてない人じゃないかな。
—— 確かにそうですね。
大森 でも、くるりのライブ行ったら、無性にかっこいいんだよなあ。まじで焦るな、ああいう時(笑)。やべえなあ、と思って。やっぱミュージシャンって一番かっこいいじゃん。ボクサーもかっこいいけど、ボクサーはやっぱ痛いし、選手生命も短いから。次に自分がやるなら、やっぱりミュージシャンだねっていう話を、龍平(松田龍平)とだいぶ前にしたな。
岸田 僕は職人さんとか、配電盤とか直す人とか。こんこんって叩いて、直しちゃう人とか、わあかっこいいって思う。仕事をちゃんとこうプロとしてやってたら、プロとしてっていうか……チャラい人は嫌です。チャラくなければ。ん……なんの話ですかね。
—— どんな人がかっこいいのかっていう話でした。
大森 もういいんじゃないの。かっこつけないのがかっこいいということで。
—— そうですね、かっこいい人はかっこいいかどうかを考えてないということかもしれないですね。
次回「映画に主題歌は必要か?」は、10/18更新予定
構成:日野淳 撮影:喜多村みか
10月18日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
©2014「まほろ駅前狂騒曲」製作委員会
映画「まほろ駅前狂騒曲」
出演:瑛太/松田龍平/高良健吾/真木よう子/本上まなみ
監督:大森立嗣
原作:三浦しをん『まほろ駅前狂騒曲』(文藝春秋刊)
脚本:大森立嗣/黒住光
音楽:岸田繁(くるり)
配給:東京テアトル、リトルモア