歴史の授業で習ったものごとがそのまま目の前で展開されている——。それはなかなかワクワクする体験ですよ。東京六本木、サントリー美術館で始まった「高野山の名宝」は、歴史の只中に身を投じたような気分が味わえる展覧会です。
高野山といえば、日本仏教における聖地のひとつ。和歌山県の東北部にある山々の総称です。平安時代、弘法大師空海が開いた金剛峯寺を総本山として117の寺が集まり、山上の宗教都市をつくりだしております。周囲から隔絶された一帯は、まさに浮世離れした雰囲気を漂わせているのですよ。
その地に伝わり、大事にされてきた仏教美術の数々を、ごっそり東京へと運んで来て見せてくれるのが同展です。照明を最小限にした会場は、宗教的な神秘性に満ちて、ピンと張りつめた空気に支配されています。自然と敬虔な気持ちにさせられますよ。
足を踏み入れてさいしょに目に入るのは、弘法大師をかたどった坐像と、空海自身の手になる書です。稀代の名筆家としても名を残す空海ですからね、さすが見事にバランスがとれて、なおかつ書き手の気がしっかり込められた書だと見受けられますよ。
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