歌舞伎は僕にとって「仮面ライダー」だった

ミュージカルへの参加や、素の姿を垣間見せるテレビのバラエティ番組出演など、ジャンルを横断した活躍で注目の歌舞伎俳優・尾上松也さん。現在、次世代を背負う歌舞伎俳優の一人とも言える松也さんですが、実は周りの活躍に焦りを感じていた時期もあると言います。初回は、歌舞伎俳優の家に生まれ育ち自然と舞台に立つようになった松也さんが、自身もまた歌舞伎俳優として生きていくようになるまでを聞きました。

尾上松也がいま輝いている3つの理由

次世代を背負う若手歌舞伎俳優!
女形から立役まではばひろく演じ、今は亡き中村勘三郎さんが立ち上げたコクーン歌舞伎にも大抜擢。自主公演も毎年手がけ、精力的な活動を続ける花形役者です!

話題のミュージカルで存在感を発揮。人気作『スリル・ミー』に初参加!
蜷川幸雄、小池修一郎らの演出するミュージカルに出演して実力をアピール。11月には再演を重ねる人気ミュージカル『スリル・ミー』に初出演します!

歌舞伎とお茶の間をつなぐ橋渡し役!
バラエティ番組などで見せる親しみやすいパーソナリティで新たなファンの心もつかみ、歌舞伎を身近に感じさせてくれる存在。来年放送予定の特別企画、ベストセラー小説『永遠の0』のドラマ化で向井理さんとともに特攻隊員役をつとめ、テレビドラマ界にも本格的に進出!

歌舞伎が嫌だったことは一度もない

— 松也さんは近年、『義経千本桜』源九郎判官義経、『仮名手本忠臣蔵』顔世御前といった大きな役をつとめるなど、次世代の歌舞伎界を担う存在となっています。自分は歌舞伎俳優として生きていくんだな、という気持ちはいつごろ固まっていきましたか?

尾上松也(以下、松也) いつ自分の中でそう考えたのか、ちょっとわからないんですね。

— 松也さんは六代目尾上松助さんのご長男として歌舞伎俳優の家に生まれました。幼少期から舞台に立っていましたが、中学ではお休みされていましたよね。

松也 歌舞伎俳優は、中学時代はお休みすることが多いんです。声変わりもあるし、歌舞伎って中学生くらいで演じられる役どころがあまりなかったりするので。高校になって復帰の話をいただいた時には、俳優としてやっていくのであれば、歌舞伎を経験することがとても糧になると思って戻ってきたんですが。

— その時点で、これで一生食べていくとはっきり固まっていたわけではなかった?

松也 いまだに好きの延長線上でやっているのかなという気はしますね。これで一生食べていくんだなんて深いところまで、いつ考えたのかわからないですね。

— はっきりした転機があるわけではなく。

松也 ないような……。転機というならば、子役で初舞台を踏んだ時点で転機だったのかもしれないなと、今は思います。

— 子役として立っていた歌舞伎の舞台は、楽しいものでしたか?

松也 楽しかったんだと思います。当時、舞台のお話をいただくと、両親は一応僕自身にやるかどうか聞いてくれて、そのたびに僕はやりたいと言っていたようですね。家の中でも歌舞伎ごっこをして遊んでいた記憶があるので、好きだったんだと思います。

— 夢中になれるものだった?

松也 僕の中では、仮面ライダーやレンジャーもののヒーローに憧れるのと同じようなものとして歌舞伎もありました。遊びの延長線上にあった気がしますね、小さい頃は特に。

— でも、学校のお友達などとは、あまり歌舞伎の話はできなかったのでは。

松也 小学生の時は、学校に恵まれていて非常に理解があったんです。僕の出る舞台は、必ず友達が観に来てくれました。久しぶりに学校に出たら、率先して遊びに誘ってくれたし、勉強が遅れていれば教えてくれたし。応援してくれていましたね。

— やはり舞台に出ている期間は、なかなか学校に行けなかったですか?

松也 そうですね。同世代に歌舞伎俳優の息子さんがあまりいなかったんです。僕と中村勘九郎さん、七之助さん兄弟くらいだったので、ありがたいことにひっぱりだこで、しょっちゅう舞台に出ていました。低学年の時は、一年の半分くらい休んでた時期もありましたね。登校した時になじめるかなって不安だったりするんですけど、みんな待っててくれたので、今思うと本当にありがたかったなと。

— 成長していく中で、歌舞伎以外の芸能に興味が出てきたりはしましたか?

松也 歌舞伎から離れている時には、ハリウッド映画をよく観ていました。だから、映画俳優になりたいと思った時期もありましたし、野球が好きだったので、プロ野球選手になりたいなと思う時もありました。でも、歌舞伎が嫌だって思ったことは一度もないかな。

伝統の上に新しいものを構築していく

— 今年6月には、年齢が近い中村勘九郎さん、七之助さんと一緒に、コクーン歌舞伎『三人吉三』に出演しました。コクーン歌舞伎は2012年に亡くなった十八代目中村勘三郎さんがたちあげ、現代的な演出を大胆に取り入れて歌舞伎界で重要な役割を果たしてきました。オファーを受けた時の気持ちは?

松也 率直にうれしかったです。目標の一つでもありましたから。僕の10代、20代はまだ全然、役をさせてもらえない時期がほとんどだった。その中で、同世代の彼ら二人はコクーン歌舞伎にも出て、新春浅草歌舞伎にも出て。主役を演じて活躍してましたし、世間的にもすごく有名になっていた。

— 子役の頃は彼らと一緒に舞台にひっぱりだこだったのに。

松也 一緒に忙しい子役時代を過ごしたのに、ちょっと成長したらもうだいぶ差がついていました。ものすごく悔しかったですし、フラストレーションがたまってましたからね。以前のコクーン歌舞伎で『三人吉三』が上演された時に、同世代のその二人も出演していて。それを観ながら、いつか僕もこの舞台の中心に立っていたい、彼らが中心になる時には僕も肩を並べたい、並べなきゃという気持ちをひそかに抱いていました。

— やっと二人と肩を並べて、コクーン歌舞伎の中心に立ったんですね。

松也 同時に、勘三郎さんが亡くなってから初めてのコクーン歌舞伎、しかも主役三人がこれだけ若い世代になるのも初めてなので、責任も感じました。この三人で、今まで満員だったコクーン歌舞伎と同じように、あるいはそれ以上に満員にすることができるのか。オファーのうれしさと同時に、すぐに感じたところですね。

— コクーン歌舞伎では、椎名林檎さんなどのアーティストを起用した演出や、山田洋次作品の常連である俳優の笹野高史さんなど、歌舞伎役者以外の方の出演も印象的です。松也さんご自身が将来的に、歌舞伎に他のジャンルの俳優を引っ張ってこようという考えはありますか?

松也 作品や企画にもよると思いますが、そういう観点で考えたりもしますね。歌舞伎は伝統をつないでいくことも大切ですけど、新たに何かを構築するということをしてきたからこそ今があると思うので。勘三郎さんがコクーン歌舞伎に笹野さんを招いたことには賛否両論あったかもしれないけど、僕はやるべきことだと思うし。演出家の起用にしてもそうですよね。

— 通常の歌舞伎には専業の演出家はいませんが、コクーン歌舞伎には演出家がいますね。

松也 今までの歌舞伎の規制にはまらない演出家に演出してもらうのは、歌舞伎の可能性を広げることにもなる。もちろん歌舞伎らしさというか、僕たちが培ってきたものは活かしつつも、歌舞伎以外のジャンルの方たちが入ることで、何が生まれるかを楽しんだ方がいいのかなと思います。伝統と革新、と言ったらあれですけど。その挑戦は、これからも続けていかなきゃいけないと考えています。

次回、「ハードルが高いからこそ得るものがある」は10/28更新予定

構成:香月孝史 撮影:吉澤健太 スタイリング:曽根原未彩(je le colore)


尾上松也さんが出演するミュージカル『スリル・ミー』、チケット発売中です!


11/7~11/24 東京・銀河劇場
11/29 大阪・サンケイブリーゼホール
※尾上松也×柿澤勇人ペアは東京公演のみの出演です。

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この連載について

イマ輝いているひと、尾上松也「伝統のなかで革新を楽しむのも、挑戦だ」

尾上松也

ミュージカルへの参加や、素の姿を垣間見せるテレビのバラエティ番組出演など、ジャンルを横断した活躍で注目の歌舞伎俳優・尾上松也さん。現在、次世代を背負う歌舞伎俳優の一人とも言える松也さんですが、実は周りの活躍に焦りを感じていた時期もある...もっと読む

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コメント

sonoogoodharmo 尾上松也さんのインタビュー記事「」 コクーン歌舞伎のことなど、中村屋のご兄弟のお話も出てきます。 https://t.co/tVVn21qB7B 3年以上前 replyretweetfavorite

t_katsuki cakesで尾上松也丈のインタビューを担当しました。連載初回です。 3年以上前 replyretweetfavorite

hirarisa_ 『スリル・ミー』の話も次回出てきます。 |イマ輝いているひと、尾上松也「伝統のなかで革新を楽しむのも、挑戦だ」|尾上松也 https://t.co/GMDwkAL4a9 3年以上前 replyretweetfavorite