後編】無政府国家、海賊、内戦、難民……ソマリアはダメな国なのか?

ルポ『謎の独立国家ソマリランド』の著者・高野秀行さんと小説『ソマリアの海賊』の著者・望月諒子さん。片やフィクション、片やノンフィクションで「ソマリア」を描いたおふたりの対談後編です。無政府国家、海賊、内戦、難民--とかくネガティブな言葉で語られがちなソマリアですが、果たしてソマリアは「ダメな国」なのでしょうか?

ソマリランド:北部に成立した民主主義国家
プントランド:東端の海賊国家
南部ソマリア:イスラム原理主義勢力、暫定政権、その他の武装勢力が覇権を争う戦国世界

トラブルしか注目されない国

高野秀行(以下、高野) 僕は現実のソマリ世界にどっぷり浸かっているんで、正直に言って『ソマリアの海賊』は、素直な気持ちで読めなかったというか、一般読者とはまったく読み方が違うと思うんです。
 映画でいうと『キル・ビル』とか『ブラック・レイン』みたいな、外国人が描いた日本を見る感覚に近い、不思議な感じがするんですよね。

望月諒子(以下、望月) 私は、ソマリアでは暴力が横行しているのはわかっているんだけれども、ソマリアとそこで暮らす人々を「いかに肯定的に書くか」にすごく腐心したんです。ソマリアがこのままの状態いいわけはないんですけど、あまりにもネガティブな面がクローズアップされすぎているんじゃないか。つまり第一印象が最悪だから、多くの人は「ソマリアはどうしようもない国だ」「国が不幸になるのは自業自得だ」みたいに刷り込まれてしまうというか。

高野 そうやって否定から入ってしまうと、ソマリアの実像からはどんどん遠ざかってしまいますからね。

望月 そういう偏見をぬぐい去るために、私は聡明な長老ムハンマドや、新興武装勢力のリーダーで頭の切れる若者リリダルのような、架空のソマリ人を登場させたんですよね。
 つまり理知的で誇り高い人たちが、望まずして大変な状況に陥っているんだっていう、フィクションを書いたんです。それによってソマリアに親しみを感じてほしい。もっといえば、ソマリアを愛してほしいっていう気持ちで。

高野 そこはすごく伝わってきましたし、僕のスタンスもまるっきり一緒です。ソマリアに限らず、アジアやアフリカ、南米の、先進国以外の国っていうのは、とにかくトラブルしか注目されないんですよね。戦争だ難民だ、政治腐敗だ貧困だなんだって。たしかにそういう問題を抱えているんですけど、それが全部じゃないでしょ。

望月 おっしゃる通りだと思います。

高野 僕はミャンマーで少数民族の問題にも関わってたんですけど、現地で独立運動をしている人ですら、「俺たちのことをかわいそうだと思うのはやめてくれ」っていうわけです。「ここには豊かな文化もあるし、俺たちも誇りを持って生きている。ミャンマーは素晴らしい国なんだ。ただ、政治が悪いだけで」ってね。実際、ミャンマー人は僕らと何も変わらないんですよ。道理をわきまえていないとか、習慣がおかしいとかそいうことはまずないし、いいやつもいれば悪いやつもいる。
 そういう意味では、望月さんの『ソマリアの海賊』は、個人がよく描かれていると思うんですよ。要するに、「ソマリ人はこういう人だ」と決めつけるのではなく、ソマリ人にもいろんな人がいるっていう。たとえば老人代表のムハンマドと、先鋭的な海賊ジャネニと、普通の若者ブルハンの3人がずっと噛み合わない話をしていたり。

望月 あそこは、ソマリアにはいろいろな考え方を持つ人がいること、もしくはソマリアの現実を各々がどう受け止めているのかを、正確に呈示したかったんです。読者に対してひとつのソマリア観を押し付けるのを回避するには、議論が平行線をたどることはわかっていても、3人が同時に意見を戦わせる場を設ける必要があるなと。
 で、結局噛み合わないんですけど、どの考え方も事実としてあるわけです。それって、国家のあり方そのものですよね。だから、意図して政治的に書いた場面ではあります。

高野 現実では、あんなにうまい具合に意見の異なる人たちが一同に会する機会は訪れないわけですから、小説ならではですよね。そもそも人の話を黙って聞いていられる人たちじゃないし。どんどん横道に逸れていって何の話だかわからなくなる(笑)。

望月 そういう場面も想像できます(笑)。

高野 一方で、対談の最初のほうでもちょっと触れましたけど、ソマリ人の真骨頂は、合理的で論理的なところにあると思うんですよね。一見するとデタラメなんだけど、なぜか理にかなっている。

望月 そう。そこがまた、不思議なんですよね。

高野 それは、彼らが契約の民だってこともあるんでしょうね。ソマリランドがどうやって成立したかっていうと、みんなで憲法を作ったんですよ。僕は最初、その話を現地で取材して聞いたとき、建前論のように聞こえたんです。国民あるいは各氏族の義務だとか権利だとかを条文に落とし込んでいくというのが。

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ソマリア対談—高野秀行×望月諒子

高野秀行 /望月諒子

「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ東北部に、海賊を含む多数の武装勢力や自称国家、自称政府が群雄割拠しているソマリア。そんなソマリアを舞台にした作家ふたり。『謎の独立国家ソマリランド』で第35回講談社ノンフィクション賞を受賞した高野秀行...もっと読む

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コメント

ysagara 都会で信号がないとどうなるか。日本人だと交通事故が起きると感じるらしい。なるほど。  約4年前 replyretweetfavorite

daizyuugunndann >「ここには豊かな文化もあるし、俺たちも誇りを持って生きている。ミャンマーは素晴らしい国なんだ。ただ、政治が悪いだけで」ってね。cakes(ケイクス) https://t.co/v8isNDaWp2 約4年前 replyretweetfavorite

daizyuugunndann >僕はミャンマーで少数民族の問題にも関わってたんですけど、現地で独立運動をしている人ですら、「俺たちのことをかわいそうだと思うのはやめてくれ」っていうわけです。cakes(ケイクス) https://t.co/v8isNDaWp2 約4年前 replyretweetfavorite

s_hikaru 構成を担当しました。 約4年前 replyretweetfavorite