小説でどこまで「ノンフィクション」を描けるか、試したかった
—— 真山さんが新聞記者として勤めたのは、どのくらいの期間でしたか?
真山 2年半ですね。
—— その2年半が、作家としての根本になっているところがありますか。
真山 それはあるとは思いますけど、もともとあまのじゃくで、小学生のころから、なんかちょっと人と見る目が違ってたと思いますね。
2年半の記者生活は短かったですけど、記者ってこういうものだよなという手応えはありました。本当はもう少し勤めたかったですが、入社2か月の新人を一人通信部に出して、警察カバーもしろなんて人事配置はちょっとひどすぎた。嫌な仕事ばかり回されて、見出しありきの原稿を書かねばならなかったのも苦しかった。修業だから我慢しろと言われましたが、自分で自分を説得するのがしんどくなったということはあります。
—— 同じ職場にいた者として、よくわかります。
真山 共同通信にいた斎藤茂男さんのようなルポが書きたかったんですよ。『雨に泣いてる』は、ある意味でそのオマージュですね。小説でどこまでノンフィクションのようなルポを書けるかという挑戦です。
遺伝子組み換え作物は必要悪なのか
—— 少し戻って、『黙示』(新潮社)について聞きたいと思います。真山さんが取り上げてきた産業的なテーマは、金融、地熱、原発、最新作では宇宙を扱ってますけれど、農業というのも非常に真山仁らしい。しかも、かなり踏み込んで書いています。
真山 そうですね。はい。
—— 農薬の問題、GMO(遺伝子組み換え作物)の問題、農業の産業化にしても、ほかの作家ではなかなか書けない視点ですよね。
真山 前にも言いましたが、日本人が割と知ってるつもりで、実は何も知らないものをやろうというテーマの一環ですね。「農業は弱いものだから、守るべきだ」という考えが、日本を不幸にしているとずっと思ってたんですよ。このテーマで書かせてもらえたのも、ある程度作家としてのキャリアを積んだからだと思います。地味な、それでいて結構やっかいなテーマですしね。
『黙示』(新潮社)
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