スクープだった「地熱発電」
—— 真山作品は「原発」のイメージが強いんですが、実は地熱発電をテーマにした『マグマ』(朝日新聞社、朝日文庫、現角川文庫)の方が発表は早いんですね。2005年から連載が始まっています。この時点で地熱に関心をもったきっかけは?
『マグマ』(角川文庫)
真山 日本人にとって、当たり前のようにそこにあるけれど、自分たちでコントロールできないものは何かと考えた時に、エネルギー問題があると思ったんです。本当は石油をテーマにした小説を書きたかったんですよ。当時、原油価格が上昇してピークアウトだと言われ、石油が輸入できなくなったら、代替エネルギーをどうするのかって話になってたんですね。
—— 2003年のイラク戦争をきっかけとした供給不安ですね。
真山 出版社にこのネタを提案したんですが、経費面で難しいと言われました。海外取材が必須でしたから。その後、ある飲み会で、「知り合いが地熱関係の業界団体にいるんだけれど、地熱発電って原発に押されて大変みたいだ」という話を聞いたんです。それは面白い!と思って。実はその時まで、地熱発電の存在すら知らなかったんです>が。
—— 普通、知りませんよね。
真山 九州とか北海道の人だとピンとくるらしいですけどね。で、虎ノ門で3時間取材させてもらいました。そこで『マグマ』の骨格が出来上がったんです。
その時はね、これはスクープだ、抜いた(※)と思いましたね。私と同じくほとんどの人は知らないだろうと思ったし、エネルギー問題を考える上で新しいテーマだし、何よりこれで「原発を止められる」んですから。
※業界用語で「スクープをとる」ことを「抜く」ともいう。
—— 『マグマ』の冒頭は、「5年以内に日本の全原発を閉鎖せよ」という先進国の外圧から始まります。
真山 地熱発電の小説だから原発が邪魔だってこともありますが、私自身、いずれは原発を止めてほしいと考えていますから。
—— そうなんですね。
真山 日本で原発を止められない最大の理由は、代替エネルギーがないことです。そこで有望なのが地熱発電なんですが、原発に比べて発電量が小さいとか、発電施設に膨大なコストがかかるとか、電気料金が高いとか、いろいろ言われて進んでいなかった。さらに、当時は電力が供給過剰だったんですよ。日本の節電技術は世界のトップクラスで、火力発電なんてほとんど稼働せず、原発と水力発電だけで電力が足りてたんです。だから新エネルギーを開発する必然性はないんです。
じゃあ、どうやったら地熱発電の物語を始められるかって考えた時に、中国や韓国に原発を作らせるのは危ないんで、おまえのところが率先して止めてくれという「外圧」が来たことにした。この可能性は0%じゃないなと思いました。
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