第1回】堀江貴文がいま立候補しない理由

政府も警察も銀行もムダなもの? 個人資産が国家予算を凌駕し、テクノロジーの進歩が国境をとかしている昨今。世界が変わった今、新しいビジネスチャンスが生まれています。仮想通貨による情報のフラット化と活性化、シェアの発想が生む衣食住の共有、体験や時間の共有。もはや国家はいらないのでは? そう考える異端ふたり、田原総一朗さんと堀江貴文さんが「バラ色の国家解体論」を語る『もう国家はいらない』から内容の一部を紹介していきます。

プロローグ—リスクゼロはありえない(田原総一朗)

 今年、僕は80歳になった。戦争を経験し、高度経済成長を生き、日本のいいときも悪いときも見てきた。多くの人から今の日本は成長の時代を終え、成熟期に入ったなどという声を聞くが、これまで日本を見てきた僕には、そんなふうには思えない。

 仕事で会う若い企業家たちや研究者たちは皆アイディアを持ち、古いものにこだわらず新しい流れをつくりだそうとしている。彼らの姿を見ていると、世の中に常に変革するきざしがあることに気づき、わくわくする。

 しかし、その変革にはリスクがつきものでもある。

 若手企業家の先駆者で10年来の付き合いである堀江貴文氏は、中央集権的な仕組みを変えなければいけないという。本書の対談の際も、彼はたびたび「国家を解体したい」と口にした。その中には、旧来の国家を否定したいという思いもあるのかもしれないが、ヴィジョンは実におもしろい。そして説得力があり、言葉とは裏腹に未来に向けての明るい希望がある。

 人間は過ちを犯しても常に前に進む生き物だ。前に進み続けるかぎり、リスクゼロはあり得ない。そろそろ前に進むことをやめてはどうか、という向きもあるが、一度歩みを始めた人類が歩みを止めることはできるだろうか。そして、今よりもっとよい明日を望む人類がいない社会に魅力なんてあるんだろうか。

 まだ起きていない恐怖に怯えるよりも、現実を冷静に見据え、リスク回避を吟味することが問われていると思う。そのためには、新しい社会の流れを知り、新しい考え方を知る必要があるだろう。

政治は社会を変えられない

田原総一朗(以下、田原) 最近、堀江さんは精力的に、幅広い分野の人たちと会っていますね。

堀江貴文(以下、堀江) 僕はもともと人に会うのが大好きなんです。今は特に、できるだけ知らない分野の人と会って、自分が知らなかったことをたくさん聞きたいと思っているんです。

田原 瀬戸内寂聴さんとの対談などは、僕も読ませていただいたが非常に興味深かった。

堀江 死生観とか、いろいろな話ができてよかったんですが、意見が最後まで折り合わないところもありました。

田原 たとえば原発問題だね。だいたい日本のインテリとか、アーティストたちは、みんな原発に反対しているように思う。これはいったい、なんでだろう?

堀江 原発反対派の人だけではないんでしょうが、まず、原子力についての正しい知識を持っていない人が多いと思うんですよ。

田原 そうかもしれないね。

堀江 よく言われるのは、放射性物質が人体に与える影響です。しかし実際は、どれくらい拡散しているのかきちんと調べられていないところもある。それなのに、いまだに、東京の放射能汚染が危険なレベルだとして、発言している人もいるんじゃないでしょうか。

田原 放射線による人体への影響については、専門家の間でも意見が分かれているところですからね。

堀江 それと……、ファッションというか周りの人との関係性で、「反対」を言わされている人もいると思います。

田原 選挙では、まったくそうですよ。僕は滋賀県出身ですが、今年(2014年)の滋賀県の知事選で当選した三日月大造さんは、民主党のときは原発反対ではなかった。しかし、この人が「卒原発」を唱える嘉田由紀子さんと組んで、原発反対と言ったら勝ったんだ。これから10月には福島県の知事選があるし、翌月には沖縄県の知事選もありますが、選挙では、原発賛成なんて言ったら負けてしまう。原発反対と言えば勝つというのがあるんです。

堀江 なんでですかね。僕はみんな川の上流にいたいのかなと思うんですよ。

田原 川の上流とは?

堀江 水がきれいで汚れがない、原発などという煩わしいもののないところ、という意味なんですけど。

田原 なるほど。下流のほうには人間が使った排水がさんざん混じって、濁った水が流れている。そんなところにいて、汚れた水など見たくないんだということね。

堀江 ええ。でもね、上流の水がきれいなのは当然なんですよ。僕はただ、きれいなだけの水なんてリアリティがないし、魅力がないと思います。逆に、下流にはいろんな濁りがあり、人間の生みだしたあらゆるものが混ざっているけど、それが現実ですからね。

田原 濁りがある下流に魅力がある、というのはおもしろい。川の上流にいたがる、というのもファッションかもしれないね。そういうファッションに対して、堀江さんは挑もうとは思わないの?

堀江 ツイッターではときどき言ってますよ。

田原 今の日本の政治家は、自民党も含めて原発については何も本当のことが言えない。世論が怖いからですよ。
 たとえば、放射能の安全基準は、民主党が除染基準値と決めた「年間1ミリシーベルト以下」がいまだに使われている。これは、ICRP(国際放射線防護委員会)の基準とも違う。厳しすぎる基準が、復興の妨げになっているという声もあるんです。

堀江 どういう基準を用いるかということも、放射性物質が体に与える影響を正しく理解しあわないと決められないですからね。

田原 だから僕は、今こそはっきりものの言える堀江さんが政治家になるべきだと思っているんですよ。

堀江 いや、僕は今現在、政治家になるつもりはありません。働きながら、ずっと社会を変えたいという思いを持ってきましたが、政治家になっても社会は変えられない。それよりも、新しい科学技術を広げていくほうが近道だと思っています。そして、科学技術を推進することで、原発の問題にも関わっていきたいと思っています。

科学的な知識が不足している!

田原 3・11の福島原発の事故が起きたことで、今、科学技術の限界を訴える、いわば「自然派」の人が多いと思う。「科学技術の進歩発展の時代は終わった。自然に帰れ」とね。

堀江 そういう意見もあると思います。しかし、その人たちは何をもって、技術に限界があるなんて言ってるんでしょうか。だって、人間は、まだ宇宙の広がりがどこまであるのかさえわかっていない段階なんですよ。「宇宙とは何か」「物質とは何か」を研究している素粒子物理学だって、素粒子そのものが何からできているか、まだ解明できていないわけです。

田原 堀江さんは今、宇宙開発にも携わっているんですよね。しかし、宇宙はそれこそまだ何もわかっていない。限界どころか、どこまで観測できるかに挑戦している状態だというわけだ。

堀江 宇宙の姿やメカニズムを解き明かす理論の有力候補として「スーパーストリング理論」というのがあるんです。「ストリング」とはひも(弦)のことで、ひとつの弦の振動によって多様な素粒子ができているという理論です。これで宇宙が説明できそうなんですよ。しかし、その一方で宇宙のほとんどはダークマターとかダークエネルギーというものが占めているとも言われている。

田原 それはなんですか?

堀江 正体のわからない未知の物質ということです。ようするに、人類はそれだけわからないことのほうが多いということなんです。

田原 人類は世界の全体像さえつかめていないのに、何が「限界」なのかということだね。

堀江 そうですね。脱原発・卒原発派の人たちの話を聞いていると、そういうことを思うことがあります。安易に限界を言うのは、むしろ科学技術を正しく理解していないと思えます。

田原 それでは、「自然に帰れ」という、自然派の人たちについてはどう思いますか?

堀江 その自然という定義が、僕とは違っているように思います。

田原 多くの場合、人間がつくりだしたもの以外を、自然と捉えているように思うけど。

堀江 つまり、自然の対義語として人がつくりだしたもの=「人工」と考えていますよね。ナチュラルの対義語としてアーティフィシャルを考えているふしがある。

田原 対峙するものではないんだと?

堀江 僕は、人間も自然の一部だと思っているんです。

田原 地球の歴史のひとつとして人類が発生したと考えると、そうなるんでしょうね。

(つづく)


田原総一朗さんと堀江貴文さんが「バラ色の国家解体論」を語る!


もう国家はいらない (ポプラ新書)

この連載について

バラ色の国家解体論—もう国家はいらない

田原総一朗 /堀江貴文

政府も警察も銀行もムダなもの? 個人資産が国家予算を凌駕し、テクノロジーの進歩が国境をとかしている昨今。世界が変わった今、新しいビジネスチャンスが生まれています。仮想通貨による情報のフラット化と活性化、シェアの発想が生む衣食住の共有、...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

SEEEKR3  夜にこういう記事読むのが好き、面白い。。 約3年前 replyretweetfavorite

paravola (国家がなければ原発はできない)「反対派の人だけではないんでしょうが、まず、原子力についての正しい知識を持っていない人が多いと思うんですよ」 4年弱前 replyretweetfavorite

kobeyadaichan これ、読まれてほしい https://t.co/zjWF1sQO45 4年弱前 replyretweetfavorite

masatoynz2601 「今よりもっとよい明日を望む人類がいない社会に魅力なんてあるんだろうか。」 4年弱前 replyretweetfavorite