たいへんなことばかりあった年が暮れる。
荒物屋の誰かが亡くなった。駅を出たところに、「T家式場」の看板が出ていて、わきに荒物屋の店名も書いてあったので、知った。
おそらくは、夏に店先で見た百歳近い店主のお母さんが亡くなったんだと思う。お店には数日休みますとの貼り紙があったので、まさか店主本人ではないでしょう。夏には店先に出ていた人が、こうして年を越せなかったりするというのは、ごくふつうのことで。少し風が吹いて。そんなこと。
そういえば、わたしはいま喪中になるのだ。あんなにおばあちゃんっ子だったのに、そのことをふだん忘れているのが寒々しい。私はしっかりと記憶にある中で、人の死体というものをみたのは今年の一回だけなのです。人の死ってむかしはもう少し当たり前に転がってたはずなのに、なにかで価値が高められてしまったのかもしれないと思ったり。思わなかったり。寒かったり。風が吹いたり。
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