イスラム教とその文化を理解するための方法論
イスラム教とは何か? その問いは簡素だが答えることは難しい。それは相対性理論とは何か?というような問いとは異なっている点に難しさがある。相対性理論は、普遍的に答えることが可能だ。正しく数学や物理学を学べは理解できる。あるいはその本質は比喩的に表現することもできる。しかし、イスラム教とは何かとして問われるものは、一見、同様の問いに見えながら、実は異なっている。問われているのは、大半は異教徒である日本人にとって、それが何かということだ。この問いの仕組みを理解しないかぎり、多様な正解を主張する各種のイスラム教専門家の解説に戸惑うだけになる。イスラム教とその文化を熟知した井筒俊彦は、その問いの仕組みに気がついていた。『イスラーム文化』(岩波文庫)はその問題意識がまず明確にされている。
それは急速に国際化しつつある世界の現在的状況において、われわれ日本人が、日本人の立場からイスラーム文化をどのような目で見、どのような態度でその呼びかけに応じていくべきかということ、そしてまた、そういうことができるためには、イスラームをどういうふうに理解したらいいのかということであります。
井筒が示した方法論は驚くべきものだった。コーラン(クルアーン)を正確にアラビア語で読み解くほどのイスラム教の知見を持ちながらなお、日本人であること、特に東洋人であることを生涯内省しつづけた彼の普遍的な人間学の視点から、イスラム教徒の内面と文化の本質を、描き出そうしたのである。
結果、本書は講演を元にした読みやすい小冊子でありながら、現実に存在するイスラム教の各派の主張やその潜在的な可能性までが、一望に見渡せることになった。おそらく、この業績は現在のイスラム教学者に、反発もあるだろうが同時に深い思索をも促すだろう。現代社会のイスラム教の動向にさえ遙かな視座を与えるだろう。もちろん日本人に、深いレベルでイスラム教の理解をもたらし、イスラムの未来も展望させる。少なくとも本書を一読すれば、現在の西洋社会が持つイスラム教への視点は軽く越えることができる。
本書は、イスラム教をその文化および歴史のなかに内包したうえで、宗教、法(法と倫理)、精神性(内面性)という3つの面に分けて章立てし、段階的にその本質と展望を示していく。その過程で、現在のスンニ派、シーア派、その他の派について、有機的かつ、かなり詳細に本質が語られることになる。別の言い方をするなら、一般に正統なイスラム教として語られることの多いスンニ派や、またその対抗として位置づけられがちなシーア派についても、それらを総合するイスラムの原理からきちんと説かれていく。
イスラム教の特徴とは?
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