スルメ・ライク・ティーンスピリッツ
いきなりですが、みなさんはFAXで最初になにを送ったか覚えていますか?
普通は家族や親戚なんかに手書きの挨拶なんかを送ると思うんですが、ぼくは友達にスルメを送ろうとしました。
そう、スルメ。
魚を干してぺったんこにしたアレです。
もちろん、スルメそのものが届くわけではなく、スルメの姿が印刷された紙が吐き出されていたのですが、半分くらい「紙とおなじくらい薄いし、これくらいならマジで送れるんじゃないかな?」と思っていました。
前回のインタビューでは、3Dプリンタについて考えることによって「生物と機械の境界」が曖昧になってきました。しかし3Dプリンタはさらにもうひとつの境界を曖昧にすると、ぼくは思っています。
それは、「物質と情報の境界」です。アトムとビットと言い換えてもいいでしょう。(※)
※アトムは物質量を、ビットは情報量をあらわす最小単位。
デジタル+フィジカル=フィジタル!?
海猫沢めろん(以下、めろん)子供の頃「FAXでスルメが送れるんじゃないか?」って考えたことがあるんです。3Dプリンタって「情報が物質になって出てくる」わけで、それが実現したのかも知れませんね。
田中浩也(以下、田中)そうですね。でも、FAXのラディカルなことって、向こうから勝手に送られてくることだったと思うんですよ。つまり、家に帰ったらたくさんロール紙が来てたとかっていうイタズラ、ああいうことです。実は、3Dでもそれができちゃうかも知れなくて……3DFAXがもうすぐ発売されるんです。
めろん 3DFAX……!? それは本当に物質転送みたいなことですか?
田中 そうです。物質を置いたら、スキャンデータがあっち側に送られて3Dプリンタで出力されるんです。だから、FAXのイタズラみたいに、家に帰ったら3Dプリンタからお土産物みたいなモノがたくさん送られてきてた……みたいなことが本当にあり得えてしまいます。まだ実際の機械は見ていませんが、技術的には可能なことなので。
めろん いや、でもそれ……データでためておけばいいじゃん……って思いません?(笑)物理空間が侵食されるのは、なんか嫌だなあ。
田中 問題はそこです(笑)。僕も物理空間を取られるのが嫌で、学生といろいろ議論しながら研究しているんですけど、これから3Dプリンタを生活に溶け込ませていくためには、「消えてなくなる物質」っていうのを作らないといけない、という話になっているんですよ。何日かだけ存在して何日か経ったら消滅する。その期間が設定できる拡張物質。
めろん それはモノとしておもしろいですね。あれですよね、芳香剤がいつのまにか消えてるとか。
田中 そうそう。そういう感じのものを、僕らはまず「砂」でやろうと思ってるんです。砂を固めて3Dプリントして、3日たったらまたさらさらに砂に戻っていく。今は「さらさらした情報」の世界と、「ゴツゴツした物質」の世界があまりにも対極すぎるので、その中間の、「さらさらした物質」が生成流転するような、第3の世界を作りたいっていう気持ちがあるんです。僕の本では、それを「フィジタル」って言ってます。
めろん フィジタル……フィジカルとデジタルのあいだを表す非常にいい造語ですね。
日本中の3Dプリンタで「銃」が作られた日
情報と物質のあいだ、というのは抽象的な話題に思えますが、これにまつわる具体的な事件がありました。 少し前に問題になった3Dプリンタの銃問題です。
2014年5月8日、3Dプリンタで銃を作った大学職員が銃刀法違反で逮捕されました。製作された銃に殺傷能力があったため、銃刀法違反が適用されたのです。これは、銃のデータという情報自体が違法なのでしょうか? それとも、データを物質化したことが違法なのでしょうか?
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