3Dプリンタ=四次元ポケット!?
前回のルポでSRシステムを紹介してから数ヶ月が経過しました。少し時間が空いてしまいましたが、さて、第2弾でとりあげるのは3Dプリンタです。
ご存じかも知れませんが、3Dプリンタというのは、紙などの平面に二次元的なデータを印刷するプリンタに対して、3Dデータをもとに立体を造形する機器の総称で、いま急速にぼくらの生活に入り込んできている技術のひとつです。
海外のSFドラマ「スタートレック」に出てくる「レプリケーター」という万能機械をご存じでしょうか? これはたとえば、コーヒーを飲みたいと思ってボタンを押すと、カップに入ったコーヒーがまるごと出てくる——つまり、蓄積されたデータをもとに、そのとき必要なモノをなんでも分子構造から作ってしまうという究極の機械です。
現在の3Dプリンタの最前線では、食べ物を出力する「フードプリンタ」が登場しているほか、バイオプリンティング(生体印刷)といって、細胞を直接噴射する3Dプリンタをつかった治療も医療の世界で活用されています。つまり、「レプリケーター」に近しい技術が実現しつつあるのです。このままいけばあるいはドラえもんの「四次元ポケット」のように、なんでも出力することができるようになるかも知れません!
それはそれですごい……とはいえこの連載のテーマは、「機械と生物の境界を探る」というもの。3Dプリンタはこのテーマとすこし距離があるのでは? という疑問を持たれるかもしれません。確かにぼくも最初はそう思っていましたが、とある人にこんな話を聞いて、考えが変わりました。
「プリンタを買って、最初に作るものは何か? 答えは——3Dプリンタが壊れたときのための、予備の部品です」
機械が自分で自分の部品を作る——これはなんだか笑ってしまうような話なのですが、考えてみるとなかなかに奥深い。生物の定義のひとつとして「自己複製をする」というものがありますが、まさにそれを行うことができる機械が3Dプリンタなのです。
今回取材に応じてくれたのは田中浩也さんです。慶應義塾大学の准教授である田中さんは、日本の3Dプリンタの普及につとめ、FabLabを牽引、様々な活動を通じてファブリケーション(ものづくり)を広めてきた方です。
実は今書いたレプリケーターの話や3Dプリンタ生物説は、彼の『SFを実現する―3Dプリンタの想像力(講談社現代新書)』という本のなかで書かれていることなのです。
読了後のわくわくを抱えたまま、さっそく研究室に取材に行きました。
ペットボトルがAKBの脚になる
その研究室は横浜の中華街にありました。
外からみると普通の企業が入っているオフィスビルですが、エレベーターで2階へあがり、とある一室のドアを開けると、いくつもの工作機械、木のパネルを組み合わせて作られた自転車やテーブル……まるで小さなホームセンターのような光景が広がっていました。
ここが新しくできた、慶應大学SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボ横浜拠点です。
ん? ちょっと待て……そもそもファブリケーションとはなんぞや???
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