牛込の加寿子荘

牛込の加寿子荘」 第十四回

築40年を超える「加寿子荘」での生活風景。能町みね子の自叙伝風小説! (『少年タケシ』2011年11月更新分より)

雨風の激しい夜は、加寿子荘の正念場。
築四十二年のわが和子荘、男性なら大厄、雨風にものすごい轟音を立てております。古さをまざまざと感じてわたしの心も盛りあがります。わくわく。がんばれ和子荘、雨漏りだけはかんべんね。倒壊はもっとかんべん。


築四十二年と聞いてはいるけど、宝箱にでもついてそうな古すぎる鍵を毎日見るたび、やはり四十二歳は詐称のような気がする。小窓は閉まっているというのにすきま風という言葉では済まないほど風が入ってくるし、突風が吹けば建物全体が揺れるし、五十歳は軽く越えているのではないだろうか。
そして、例によって私はまだ一方的に好かれている。
もう朝晩は肌寒いというのに、私のことを一方的に好きらしい。あの、虫がよ。
なんで特大サイズが一週間に二回も出るのか。私はこの部屋を好きでいたい。その気持ちに水を差さないでください、おねがいです。
ヤツが出るたび、私はいつもジェットナントカというスプレーで、自分の健康状態が心配になるくらい噴きかけていた。しかし今回はヤツが出たのが台所の食器洗いカゴの上だったから、ジェットはためらわれた。ジェットをやっちゃえば食器ぜんぶ洗い直しだし、食器用洗剤で戦ってみるかっておもった。洗剤は効くとよく耳にしていたのです。

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