第67回】「ドイツ政府の直接援助なしではエボラの戦いに敗北する」呑気な先進国とアフリカの悲痛な現状

ドイツのシュトゥットガルトに在中の川口マーン惠美さんが、EUから見た日本や世界をテーマにお届けするコラムです。


〔PHOTO〕gettyimages

収束の兆しが見えないエボラ熱

アフリカにおけるエボラ熱の流行が、大変な事態になっている。WHO(世界保健機関)のマーガレット・チャン事務局長は12日、新たな感染者の発生 が拡大阻止のペースを上回る規模で進んでいるとして、深刻な危機感を表明した。リベリアでは、これ以上の新たな患者を収容するためのベッドがないそうだ。

死者と感染者の数は、ニュースを読むたびに増していく。19日の発表では、死者2600人、感染者5600人を超えた。ただ、本当の数字はこれよりずっと多いことは間違いない。しかも、収束の兆しがまるで見えない。

18日には、国連の安保理事会は緊急の会合を開き、エボラ熱鎮静のための決議案を全会一致で採択した。エボラ熱はこれにより、「国際社会の平和と安全にとっての脅威」と位置付けられた。

ニュースによると、リベリアで援助活動をしている『国境なき医師団』の医者が、動画中継を通じて安保理のメンバーに向かって現地の壊滅的な実情を直 接訴えたという。エボラ熱の感染者を救うために命を懸けて戦っている人間の、「今、国際社会が立ち上がらなければ、我々は全滅する」という悲痛なSOS に、安保理の面々は動揺し、決議案は劇的な雰囲気の中での採択となったという。安保理が、伝染病に関する決議の採択をおこなうのは、とても珍しいことだ。

決議案の採択は、米国の主導で実施された。米国は力に任せた独善的な行動が多く、それを変に倫理的に色づけするものだから、しばしば腹が立つが、この国は立派なことも多くしてきた。今回は、エボラ熱が蔓延しているアフリカ諸国に、援助のための軍隊を差し向けるという。

オバマ大統領が8日にNBCに語ったところによれば、隔離施設を設置し、まず国際協力者たちの安全を確保する。彼らの安全が保障されなければ、事は進まないし、現地で援助活動に参加しようという医療関係者も増えない。

救援物資、専門家派遣、病院一式・・・ドイツによる支援

現地の混乱は、私たちの想像も及ばないほど悲惨な状態らしい。その中で、まだ病人の世話をし、遺体の埋葬をしている人たちがいることには、頭が下がる。また、外国から救援に駆けつけている人たちに関しては、さらに頭が下がる。

しかし、その努力にもかかわらず伝染病の勢いは弱まらない。シエラレオネでは戒厳令が敷かれ、外出禁止。3万人の志願者が、警察に護衛されながら、150万戸の家々を訪ねて、隠れた病人を探したり、石鹸を配ったり、予防・衛生に関しての啓蒙をしたりしている。

ドイツ政府はすでに8月13日から、医療関係者以外のドイツ人のギネア、リベリア、シエラレオネへの渡航を禁じている。事態はそこまで深刻なのだ。現地で救援活動をしている外国人たちは、孤立無援の感が強いのではないか。

アメリカの派兵は、エボラ熱の危険が自国にも及ぶことを懸念した上での決断だ。今でさえ強力なウイルスが、さらに進化すれば、エボラ熱はアフリカに留まらない可能性は高い。だからこそ、この鎮静を自国民を守る対策の一つと位置付けた。

一方ドイツも、救援物資のほかに、伝染病の専門家を派遣することを検討している。現地の医療関係者に正しい知識を教え、効果的で安全な医療活動をおこなうための人員養成が目的だ。

エボラ熱の流行が始まってから現在までに、ドイツが援助のために用意した金額は240万ユーロだったが、国連の決議案採択の後、急遽1,500万 ユーロを上乗せした。この金額を見れば、ドイツがいかに事態を深刻に見ているかがわかる。シュタインマイヤー外相は、他国と協力して十分な援助をすること は、ドイツの責任であると言った。

なお、ドイツが援助として検討していることの1つに、病院一式の輸出がある。現地の病院は劣悪な状態で、ちゃんとした医療がおこなえない。そこで、 最新の機能を備えた病院を、丸ごと持ち込もうという計画だ。ドイツ連邦軍や赤十字は、どんなところにでも、あっという間に病院を設置する技術をちゃんと 持っている。

あるいは、病院船を港に接岸し、そこを医療活動の拠点の一つとするアイデアも出ている。

いずれにしても、ドイツ人が設置する仮設病院は、現地の病院よりも設備が良く、素早く医療活動に入れるはずだ。伝染病の研究では有名なロバート・コッホ研究所が協力している。まずは、200床以上の病院が計画されている。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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