“美少女”という武器を装備できていないからいい
加藤貞顕(以下、加藤) 「彼女写真」ではこれまで24人のモデルの方に出演していただきましたが、今振り返って、印象に残っている子はいますか?
西原伸也(以下、西原) 僕は一読者として、第1回の馬場ふみかちゃんに特別なものを感じました。新潟は「美少女図鑑」がはじまった土地なだけあって、モデルの女の子たちにも力がありますね。
青山裕企(以下、青山) 新潟は「美少女図鑑」の本拠地ということで、毎年撮影させてもらっています。先日も3度目の撮影にいきましたが、今回のモデルの山田愛奈ちゃんもとても良かったですよ。
加藤 そういえば彼女は、青山さんが審査員をしている「ミスiD2015」のファイナリストですよね。
青山 そうですね。それで、東京のオーディションで見た時の印象で、撮影前はこなれた子なんだろうなあと想像していたんです。でも実際に撮影してみたら、ものすごく天然で可愛かった。地元で撮影したからこそ、そういう素に近い部分が引き出せるのかもしれないですよね。8月の鳥取編の子も、文句なしに可愛かったけれど、畑から出てきたみたいな素朴さがありました。
加藤 東京の美少女タレントをたくさん見てきている青山さんが、地方で普通に暮らしている女の子たちを撮るからこそ生まれている化学反応が、この連載にはありますよね。
西原 僕は広島編も好きです。
加藤 ああ、いいですよねえ。広島編では女の子が自転車で待ち合わせ場所に登場しますけど、あれがシチュエーションとして最高でしたよね。
「彼女写真」広島編より
青山 これも最初から決まっていたわけじゃないんですよ。当日の打ち合わせの中で「自転車とかいいかも」と僕が言ったら、運良く現地の方に借りられることがわかって投入されたんです。そういう、ちょっとルーズにプランを決めていく雰囲気もデートっぽくていいかなと思ってます。 でも自転車が使えるからといって、彼女と二人乗りするところまでは踏み込まない。そこまでは近い距離感は描かないし描けない、っていうのが「彼女写真」のリアルだから。
青山 あと、こうやって見ていて改めて思うのは、どの子も、やっぱりモデルとしてどうかっていうことの前に、「人として」魅力的な子たちばかりだったなってことですね。人として魅力があって“たまたま”美少女、っていうのが……いい。
加藤 たまたま、美少女(笑)。
「彼女写真」広島編より
青山 すこし厳しい言い方かもしれませんが、美少女であることにあぐらをかいてる子ってたくさんいるんです。僕は、そういう子には興味がないんです。そうじゃなくて、たまたま美少女なんだけど、その“美少女”という武器を全然構えようとしない子にひかれる。RPGでいったら、すごくいい武器を持っているのに装備しようとせず、道具袋のなかに仕舞われているってこと。そんな無造作感がたまらなく好きなんです。
西原 あー、僕はね、青山さんが興味ないって言ったタイプの子の方が興味あります(笑)。もうちょっとたくましくて、ある種の“ゲスさ”のある女の子の方が好き。そういう子にフラレて現実をつきつけられても「まあそういう女だし」って思えるじゃないですか。「あいつは武器装備してたからな、そりゃ勝てなかったわ」って。でも武器を装備してない子にフラれたら立ち直れないよ。
青山 どちらにしろフラれることが前提なんだ(笑)。
西原 もちろんそうですよ! 僕にとって、「彼女写真」に出てる子ってみんな、邪険にされたら傷つくタイプばっかりなんです。
加藤 それ、本当は好きな子ばっかりってことじゃないですか?
西原 そう。だけど行けないんですよ、あちら側には。「彼女写真」を見てる層には、青山さんみたいなタイプだけじゃなく、僕に似たタイプもいるんじゃないかな。天然美少女の無造作感を純粋に愛でるタイプと、「こういう女には近づけない!」って思いながら憧れているタイプとね(笑)。
告白できないからこそ、エンドレスに続けられる
加藤 さっき青山さんが、高校まで名古屋に住んでいたので名古屋編には思い入れがあるとおっしゃっていましたが、「彼女写真」って、その土地出身の人が見ると本当にズキュンとくると思うんですよ。僕は新潟出身なので、新潟編は何度見ても「うおお」ってなります。もちろん、そこを狙ってやっている連載でもあります。みんな、高校生の頃にこういうことしたかったじゃないですか。
西原 たしかに。僕の地元ではないですが、仙台の女の子がすごく仙台らしくて好きですね。髪を金髪にしっかり染めていてちょっとギャルテイストがあるんだけど、気だてのいい子なんだなっていうのが伝わってくる。「彼女写真」のモデルさんってそういう素朴さを持っている子が多いよね。
青山 そうなんです。この子は「彼女写真」では珍しいタイプですね。撮影前はどう撮ろうかな、って少し悩みました。でも、地元という場を使うことで女の子達から取り出せる天然の良さ、美少女としての魅力っていうものが絶対あって、それを撮っていけば、自然とデートらしさが出てくる。別にその子たちとおつきあいするわけじゃ全然ないんだけど……。
「彼女写真」仙台編より
西原 ほんとに全然ないですよ(笑)!
青山 今、「○○女子」って言葉をよく見るじゃないですか。否定するつもりはなくて、僕自身もやることなんだけど、それって要は女子を個々で見ないで属性にまとめてしまうってことですよね。ただ、「美少女」って実は、属性のようで属性じゃないんですよ。
加藤 お、深い話きましたね。
青山 美っていうのは、眼鏡とか髪型ではなくて、人それぞれ感じ方の違う、多様性のあるものなんです。もちろん「多様性のある属性」とも考えられるけど、それってつまり個々の女の子にしかない、「個性」そのものなんですよね。さっきの仙台編のような、一見ちょっとギャルっぽい子のなかにも、地方の素朴な美少女としての要素がある。そこを僕は撮っていくというスタンスです。
西原 こうやって全国で撮ってきたからこそ、いろんな子たちの、それぞれの可愛さを写し出せる連載になってきている感じがしますね。
加藤 西原さんが、出身地とかご自分の思い出を抜きにして、単純に好きな回ってどれですか。
西原 群馬編の子とか好きですね。絶対僕の嫌いなタイプの男に持っていかれるタイプの女の子だけどね。ひげ生えててフットサルしてるみたいな奴に持っていかれるんだよ、絶対。
青山 うんうん。可愛いけど絶望的につきあえる気がしない、っていうのが関東県なんです。栃木、群馬、茨城、神奈川あたり。つきあえる気がしないね。強敵なんです。
加藤 わかる。横浜の子とか、すごく今時の子って感じがします。
青山 彼女は洗練されていましたね。モデルとして一番慣れていた子かもしれない。でもね、この撮影の時は強風で、彼女が自分でコントロールできないくらい髪が乱れて困ってて、そこを撮れたのが僕的にはすごく良かったんです。彼女としては、もしかしたらこういう写真は不服かもしれないんだけど、可愛いでしょう。
西原 可愛い。この、フラッシュ直当ての写真がいいよね。写真家が一番したくないというか、使わない方法なんだけど、でもこれはリアルですよ。「写ルンです」なんかで撮るとこんな風になるじゃない。フラッシュが前にしか炊けないから。まあ、やっぱりつきあえるとは思わないけど(笑)。
「彼女写真」横浜編より
青山 「彼女写真」の連載も3年目に入って、僕の意識としては「淡々と続ける」ことに面白さがあるのかな、とは思っています。デートに進展はなく、つき合える日もこない。つまりゴールがないのが「彼女写真」なんです。美少女との、片思いのデートがエンドレスで続く。……エンドレスってよくないですか?
加藤 うん、なんとも切ない感じがしていいよね(笑)。