言葉にできない感動を大切にしたい
加藤貞顕(以下、加藤) ナタリーは自分の意見を言わない、ということを徹底しているんですよね。大山さんくらい音楽好きな人なら「このアーティストの素晴らしさは〜」って言いたくなってもおかしくないと思うんですが、そうはならなかったですか?
大山卓也(以下、大山) たまになりますよ。言いたくなった時は、Twitterやブログで書くこともあります。けど、なにかに感動しても、それをうまく説明できないことってすごく多いと思うんです。どこに感動したのかを無理やり人に説明しようとすると、最初に感じたところから離れてしまったりする。でも、それじゃ本末転倒だし、その作業って本当に必要?と思うんです。
加藤 語ってまとめちゃうのはアーティストに対して不遜なんじゃないか、ということですか?
大山 そういう感じもあると思います。もちろん、その感動を上手く説明できればいいけど、うまく言えることのほうが少ないなというのが実感としてあります。
加藤 コンテンツやアーティストに対してリスペクトがあってすごい謙虚な人だと感じるんですが、サイトを作るときの自信満々な感じと正反対のような気がして……。
大山 謙虚でしょ?(笑)
加藤 ええ、もちろん謙虚だと思うんですけど……。
大山 作品に対する自分の気持ちとかうまく言えたらかっこいいんですけど、そんなにうまく言えない。うまく言えないのに無理矢理言うのはみっともないし、それならやらない方がいい、という守りの感じはあるのかもしれないです。それに、インターネットはすごく自由な場所で色んな人がいるから、自分の意見を押し付けたりできない。それなら全部やろう、と。
ギャラすら払えなかったナタリーの貧困時代
加藤 ナタリーを作った時のお話をお願いできますか。
大山 「ミュージックマシーン」でいろいろな音楽サイトの記事を読んでいるうちに、「自分だったらこうするのに」という物足りなさをずっと感じてたんですよ。そのことを当時から友達だった津田っち(津田大介)に話したら、じゃあ自分たちでやろうという話になって。
加藤 最初は何人で始めたんですか?
大山 俺と津田っち、ライターのとみぃとエンジニアの優くんの4人で始めました。まあ津田っちは津田大介業があったので、実質3人で会社を運営してました。
加藤 最初の1年はサイトのオープンに向けた準備をしていたんですよね。
大山 本当はナタリーみたいなサイトを作るのに1年もかからないんですよ。けど、津田っちが「こういう機能も入れようか」とか、「もっとこの表示のスクロールは滑らかに」とか言い出して、俺はくわしくないから、じゃあもっと欲しいね!って言われるがままに色々機能を付け足してたらどんどん肥大化してしまって。
加藤 その間の収入は?
大山 もちろんゼロです(笑)。たまたまムックの仕事を回してくれる人がいたので、それをやってなんとか食いつないでいました。「使える!エクセル・マクロ全集」みたいなムック作ったりとか、年賀状イラスト集の編集したりとか。
加藤 サイトが始まって、お金を得るまでにどれくらい期間がありましたか?
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。