オレは『フォルトゥナの瞳』の秘密を知ってしまった—暑苦しい書店員のオススメ

有楽町の三省堂書店は、世にも不思議な謎に満ちている。そこに迷い込んだお客は、いつの間にか本を手に取りレジに並んでしまうという――。カリスマPOP職人であり、人気書店のTwitterの中の人として知られる書店員・新井見枝香さんの愛と妄想が炸裂した書評をお届けします。
今回は、『永遠の0』、『海賊とよばれた男』でお馴染み、百田尚樹さんの『フォルトゥナの瞳』。ミリオンセラー作家が挑んだ、人間の「運命」を巡るSF小説を、熱く推します。


『フォルトゥナの瞳』百田尚樹

 つり革を握った乗客の手が“透き通って見える”……だって!?

 オレは週刊新潮で連載が始まった百田尚樹の小説「フォルトゥナの瞳」第一回目を読んで、激しく困惑した。

 バイト先の三省堂書店有楽町店に、百田尚樹の小説『海賊とよばれた男』がドカ積みされていて、きまぐれに買ってみたのが始まりだ。まだ研修中とはいえ、オレだって本屋だ。「本屋大賞」の1位くらいは読んでおかないとな、と。

 ぶったまげた! おもしろかった! 敗戦、復興、日本人の魂。20年間生きてきて、初めてだ。日本に生まれてよかった、日本人かっけぇ!と思ったのは。

 いや、オレは別に日の丸もって街宣車に乗りたいって言ってるんじゃないんだ。ただ、今まで全然「愛国心」なんてものを感じたことがなかった。そんなもんどこにもないと思ってた。あんたと一緒だよ。

 自慢じゃないが、普段のオレは、ゴシップ目当てに週刊誌を買うのと、大学で流行っている漫画を買うぐらい。本屋でバイトをしているが、熱心な読者家なわけではない。でも、週刊新潮を読み終わったあと、思わずスマホを取り出して、検索をした。

 《百田尚樹》《フォルトゥナ》

 合っている。ノンフィクションノベルの『海賊とよばれた男』を書いた百田尚樹が、このSFチックな小説を書いたのだ。

『海賊とよばれた男』は、実在する出光興産の創業者、出光佐三をモデルにした物語だ。オレが毎日利用する有楽町駅も出てきたし(焼け野原だったが)、そこから少し歩いたところにある日比谷の出光本社も、この目で存在を確認した。道路を隔てた向こうには皇居があり、目が痛いほど眩い夕暮れのお堀は、本当に美しく、小説通りだった。

 オレは興奮した。こんなに強く、熱い、尊敬すべき日本人がいたなんて。日本は戦争に負けたが、今こうしてオレらがそのことをほとんど意識せずに生きていられるのは、一体誰のおかげか。俺は両手にバズーカ砲みたいな拡声器を持って「ありがとうございまッス!!」と、大空と大地に向かって叫びたかった。そして、自分にも同じ血が流れていることが誇らしく、無性に嬉しかった。

 あんな会社で働きたい。社員を家族と同じように信頼し、自分の会社の利益だけでなく、日本全体を考えて仕事をする、日本らしい会社で。

 オレは人が変わったように、サボりがちだった大学に通い、勉学に励むようになった。

 固いイメージで就職活動に有利だと聞いて始めたバイトだったが、まさかそこで、こんな変化がオレがおきるとは、夢にも思わなかった。

 「百田尚樹」に出会えてよかった。

 しかし「フォルトゥナの瞳」。これは一体なんなんだ。

 腕が透明に見える話なんて、聞いたことがない。

 《腕》《透明》

 で思わずでググってしまったが、「日焼けした腕に透明感を取り戻す方法」くらいしかヒットしなかった。

 オレはそれでも連載を読み続けた。オレは文章を読むのが苦手だと思っていたが、百田尚樹の文章は呼吸をするように読める。文章が苦手だったのではなく、周りくどい文体が苦手だっただけなのだ。

 どうやら主人公の“慎一郎”は、特別な“瞳”を持っているらしい。

 腕や体の一部が透き通って見えると、その人物は近いうちに、必ず死ぬのだ。透明な部分が多ければ多いほど、死が近い。

 慎一郎は、自分の瞳の持つ力を理解し始めると、それを確かめるような行動をした。それはほんの小さなアクションでも、大きく未来を変える行動だ。運命が視える人間が、他人の運命を変えてしまうのだ。

 連載を読むうちに、オレは“ある事実”に気付いた。

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なぜ有楽町の三省堂書店は手ぶらで帰してくれないのか

新井見枝香

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yrakch_sanseido 百田尚樹さん最新刊『フォルトゥナの瞳』有楽町三省堂書店の名物 ウソのようなマコトの書評はこちら→ http://t.co/BGCy5fMU6L 読むと、じっくり考えちゃうんだよ〜 3年以上前 replyretweetfavorite