サイハテ

第9回 第1章

由希が落とした携帯電話を拾おうとした悠治は、足を滑らせて山の斜面から転落してしまった。由希はなんとか悠治を助けようとするが……。

動画再生回数260万回を超えるボーカロイド楽曲の名曲が遂にノベル化! 
楽曲制作者・小林オニキスが自ら贈る、人と人が想いと願いをつなぐ物語『サイハテ』から一部を公開します。

♪オリジナル楽曲「サイハテ」の動画はこちら♪

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 —僕は落下していた。
 どっちが上で、どっちが下なのか、一瞬わからなかった。
 星が見える。こっちが上か。
 向こうから由希が僕の名前を叫ぶ声がこだまする。由希、あんな大きな声出せるんだな。
 携帯電話は? ちゃんとポケットに入ってる。
 僕も携帯持たなきゃな。
 バスの時間って何時だっけ。
 いろんな思考が一気に頭の中を駆け巡る。時間にするとほんの一瞬のはずなのに、その一瞬がやけにゆっくり流れていた。
 と、そのとき、壁面からせり出して生えていた細い木の枝に、身体ごと突っ込んだ。
「痛っ!!!!!」
 パキパキパキパキッ! と、枝の折れる音が、耳のすぐそばで聞こえる。そこでハッと我に返った。落下する自分の身体で風を切る音がする。あ、やばい。これは怪我で済まない。
 これは死—。
 そう思った瞬間だった。
 身体がフワッと不自然に浮き上がった。さっきまで感じていた重力を感じない。
「……浮いてる?」
 僕の身体が宙に浮いたように感じた。そのままゆっくりと降下してゆく。そして、地面から五十センチほどの高さまで降りたところで突然重さが戻ってきて、僕は横向きの姿勢で地面にドサッと落ちた。
「ぅふぐっ!」
 落下した衝撃で声にならないうめきが漏れる。
 ハァ…ハァ…と息が上がっていた。地面に横たわったまま、しばらく呼吸を整える。少し落ち着いて身体を起こすと、ものすごい汗をかいていた。
「今のはいったい……」

 崖を見上げると、頂上が遠くに見える。かなりの高さから落ちたらしい。自分の身体をあちこち触って確認してみたところ、右うでに少し大きな切り傷と、ところどころに小さなすり傷があるだけで、大きな怪我は無さそうだった。
「あの高さから……よく無事だったな……」
 自分の身に何が起きたのかはわからなかった。僕はあの瞬間、もうダメだと覚悟した。それでも無事だった。少し浮いたような気がしたが……。でもそんなことあるわけないし、何かの錯覚だったのだろうか。もしかしたら木の枝に接触したことでクッションになったのかもしれない……。僕は、今しがた自分の身に起こったことについて思考を巡らせていた。
 何気なくポケットの中に手を入れた。その瞬間、携帯電話の感触にその存在を思い出し、ようやく我に返った。

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サイハテ

小林オニキス

再生回数260万を超えるボーカロイドの名曲がノベル化! 楽曲制作者である小林オニキス氏が自ら贈る、“人と人が想いと願いをつなぐ”物語『サイハテ』の一部を公開します。 それは、たおやかな恋でした――。 ある日、中学二年生の水上...もっと読む

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