サイハテ

第8回 第1章

大きな石の門の前に広がるガーベラの花々を照らす月明かり――。悠治と由希の二人は何を語り、何を心に刻むのだろうか。

動画再生回数260万回を超えるボーカロイド楽曲の名曲が遂にノベル化! 
楽曲制作者・小林オニキスが自ら贈る、人と人が想いと願いをつなぐ物語『サイハテ』から一部を公開します。

♪オリジナル楽曲「サイハテ」の動画はこちら♪

「……ねぇ」
 由希が沈黙を破った。
「ん、何?」
 僕は由希を見つめたまま答える。
「今日は連れてきてくれてありがとう」
「いえいえ。僕も楽しかったから」
「本当に感謝してるんだ。私はもう時間がないから、最後に来られてよかった」
 —そうだ。由希は数日後には引っ越してしまう。あまり考えないようにしていたが、由希と一緒にいられる時間はもうあとわずかなのだ。
「何言ってるの。最後じゃなくてさ、またいつか一緒に来ようよ」
「……来られるといいなぁ」
「来られるよ。次は智史も無理やり連れて、三人でさ!」
 僕は意識して強く言い切った。せっかくの小旅行なのだ。今日は彼女に前向きで楽しい気持ちでいてほしい、そう思った。
「……うん。そうだね」
 由希は小さな声で返事をすると、月を見つめたまま黙ってしまった。静かに何かを考え込んでいるようだった。そして再び、言葉をかみしめるようにゆっくりと話し始めた。
「……私が、ここに来たいって言ったのはね……前に来たときにお母さんに言われたことを、思い出したからなんだ」
「何て言われたの?」
 僕が訊ねると、由希は僕のほうを向くことなく、自らの髪を触りながら答えた。
「『いつかあなたに大切な人ができたら、その人と一緒にもう一度ここにいらっしゃい』って」
 大切な人……。今の言葉を、彼女はどういう意図で言ったのだろう? 僕は彼女に対する上手い返事を、すぐに見つけることができなかった。
 一瞬の間が過ぎる。
 出会ってから数日間、由希とのいろんなやり取りが頭によぎった。そんな彼女はもうすぐ自分の前からいなくなる。いろんな気持ちが頭の中をめぐり溢れていく。
 気が付けば、今度は僕のほうから、彼女の右手を握っていた。
 きっと普段の自分なら、そんなことは恥ずかしくてできやしなかったと思う。でも、このときは自然にそうしていた。

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サイハテ

小林オニキス

再生回数260万を超えるボーカロイドの名曲がノベル化! 楽曲制作者である小林オニキス氏が自ら贈る、“人と人が想いと願いをつなぐ”物語『サイハテ』の一部を公開します。 それは、たおやかな恋でした――。 ある日、中学二年生の水上...もっと読む

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