バスは山間部に向かって走っていく。
駅前はまだ多少は拓かれていたような印象だったが、いくつか信号を経て、バスの停留所をいくつか過ぎるにつれて、景色はどんどん山へと近くなっていく。
いつしか右手には大きな河が見えてきていた。その河に沿ってバスは流れるように進んでいく。やがて道は細く、次第に曲がりくねり始めた。山を登っているのだとわかる。山を登るにしたがって、横を流れていた河は視線の下のほうへと離れていった。辺りは薄暗くなり初めていて、道路の脇にところどころ建てられている外灯の白い明かりが、点灯していた。
バス停をあと二つほど過ぎれば目的地である、
「もうすぐ着くね」
「うん。この先のバス停で降りるのが一番近いはず」
「ちゃんと事前に調べてきてくれたんだね。ありがとう」
「調べてきたのが間違ってなければね」
と僕は笑って返事をする。
やがてバスは目的の停留所に到着したが、僕ら以外にここで降りる客はいなかった。
さて、ここからどう行けばいいのか、と周囲を見回す。なんとなくバスが走り去ったほうへ向かって道を行く。すると、すぐ先にさらに山の中へと入っていく脇道があるのが見えた。
「あっ。たぶん、あそこだと思う。なんとなく覚えてる」
彼女が指差した。
僕たち二人は脇道を上がっていく。道は舗装されておらず、ところどころに石が階段状に置かれている。道の周りは次第に木々に囲まれていき、本格的に山の中へと入っていく。僕は歩幅を由希に合わせてゆっくりと歩く。ちょっと辛そうだ。
「大丈夫? もっとゆっくり歩く?」
「うん。ごめんね」
息を上げながら由希は答える。
「かばん、持つから貸して」
「え、いいよ」
「いいから、ほら」
そうやって彼女のかばんを手に取って肩から提げる。
「ありがとう」
少し身が軽くなったのか、由希の声も軽くなったように聞こえた。
道の奥のほうへ行くにつれて、周囲はどんどん暗くなっていく。
「これ、帰りは真っ暗だろうな」
頭上を覆うように木が枝を伸ばしているため、空もあまり見えず、とても薄暗く感じる。