サイハテ

第4回 第1章

夏休みが終わる前に由希はこの街からいなくなってしまう――。そのことを知った悠治は、由希に対する好意を自覚しつつも、どうしたらいいのかわからなかった。

動画再生回数260万回を超えるボーカロイド楽曲の名曲が遂にノベル化! 
楽曲制作者・小林オニキスが自ら贈る、人と人が想いと願いをつなぐ物語『サイハテ』から一部を公開します。

♪オリジナル楽曲「サイハテ」の動画はこちら♪

 八月九日
 昨日は藤沢さんのことを考えていたらあまり眠れなかった。智史が余計なことを言うからだと愚痴ぐちをこぼす。朝方に眠って、気が付くともう昼すぎだった。
 さすがに今から昼間に智史んに行って無駄話をするような元気もなく、智史には夜に直接、公園で集合にしてもらった。夜になる頃には少し元気が出てきた。彼女に会えるかもしれないという期待と、体調は大丈夫かなぁと心配する気持ちが入り混じる。

 少し早く公園に着くと、そこにはすでに藤沢さんがいて、智史はまだ来ていなかった。
「藤沢さん、こんばんは」
 彼女はこちらを振り向くと、いつものように軽く会釈をした。
「智史はまだ来てないみたいだね。具合は大丈夫なの?」
「ちょっと体調崩しちゃった……。でももう大丈夫」
「そっか。よかった」
「なんだかすごい元気になった気がする」
 彼女は微笑ほほえみながらそう言った。
「そうそう、昨日ね。藤沢さんのお父さんが来たよ」
「そうらしいね。何か変なこと言ってなかった?」
「最近うちの娘が楽しそうにしてるのが嬉しいって言ってた」
「そんなこと言ってたの?」
 藤沢さんがちょっと恥ずかしそうに顎を引く。その姿が可愛くて、自分の頬が緩むのを感じた。
「いいお父さんだね」
「うん、そう思う。でも、うちはお母さんがいなくて、お父さんと二人暮らしだから迷惑かけてばっかりで申し訳なくて」
「そういう話もちょっと聞いた。お父さん少し心配してたよ」
「えっ? 何だって?」
「……優しい子だから、周りにも自分にも気を遣ってるって」
 僕は迷ったけど、藤沢さんのお父さんが昨日話してくれた内容を伝えた。すると、彼女は何か考え込むような素振りを見せた。
「お父さん、たまにすごく悲しそうに見えるときがあるんだ。そういうときはきっと、亡くなったお母さんのことを思い出してたり、私のことを気にかけてるんだろうなって。お父さんも辛いのはわかってるから、心配かけたくないんだ……」
 肩を落とす彼女に対して、僕は何か言わなきゃいけないと感じて、口を開く。
「自分が言うのも変な話だけどさ。そうやって、お互いを思いやれる関係って、すごくいいことなんじゃないかな」
「……ありがとう。水上君って優しいね」
 笑顔交じりに言う彼女の言葉に、気持ちが少し軽くなる。
「そんなことないよ」
謙遜けんそんするかのようなセリフが思わず口をつく。だがそれから言葉が続かず、会話が途切れてしまった。
 そしてやってくる沈黙の時。
 思えば藤沢さんと二人っきりで話す、ということはこれが初めてだった。
 ああ、そうか。これまでは、こういうときに智史が話してくれていたんだ。なんだかんだであいつはすごいやつなんだなと思い知らされた。
 昨日の智史の話を思い出す。この状況で名前を呼び捨てにするなんてできないだろう……。あいつのニヤけた顔が頭に浮かぶ。

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サイハテ

小林オニキス

再生回数260万を超えるボーカロイドの名曲がノベル化! 楽曲制作者である小林オニキス氏が自ら贈る、“人と人が想いと願いをつなぐ”物語『サイハテ』の一部を公開します。 それは、たおやかな恋でした――。 ある日、中学二年生の水上...もっと読む

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