chapter2-12 メインイベント

知り合った女性たちを思い出しながら、僕は彼女たちのデータを表にまとめて整理した。輝かしい未来が待ち受けているかと思ったが、現実はそれほど楽じゃなさそうだった。そして、僕の師匠が、動き出した……。

「週末の六本木は混んでますね」と永沢さんが話しかけた。

「あ、はい。そうですね」と美女(上の中)がこたえた。

「ここのトイレって男女で分かれてないんだ」

「そうみたいです」

 彼女がトイレに入った。そして、2、3分で出てきた。そのとき、永沢さんと一瞬目が合ったように感じられた。永沢さんも、何事もなかったかのようにトイレに入った。その間に上の中の美女は、一緒に来ていた友だちの席に戻り、バッグを抱えてから、ふたりで外に出て行こうとしている。

 トイレから出てきた永沢さんが歩いて追いかけていった。そして、カフェの入り口辺りで立ち止まっていた彼女に話しかけた。

 時おり彼女は笑顔を見せているが、僕の席からは何をしゃべっているかは聞こえない。しばらくして、永沢さんとその美女が携帯を取り出しているのが見えた。連絡先を交換しているみたいだ。彼女は永沢さんに手を振りながらどこかに歩いていった。

 永沢さんが、席まで戻ってくる。

 僕は右手を大きく上げて、彼を待つ。まるで空母の甲板でドッグファイトを終えた味方の戦闘機を待つときのように。永沢さんが僕の手を叩く。店内に、パーン、という高い音が響いた。

 勝利のハイタッチだ!

「よし、クラブに行こう」

 僕は永沢さんに連れられてとうとう六本木のクラブに着いた。

 そこは六本木交差点から青山のほうに少し歩いた路地裏にあった。入り口にはすでに数人の客が並んでいる。いかつい黒人の店員に身分証明書の提示を求められ、簡単にボディチェックをされた。レセプションでひとり3500円払い、ドリンクチケットを2枚もらった。手首にはバンドを巻く。街コンみたいだ。永沢さんはコインロッカーに荷物を入れた。

 地下1階のバーにやってきた。

 暗い空間には大音響のダンスミュージックが響き渡っていて、レーザー光線が飛び交っていた。上から吊るされたスクリーンには、音楽に合わせたヴィジュアルエフェクトや、アーティストのプロモーションビデオが映し出されている。中央のダンスフロアでリズムに合わせて何人かの男女が踊っている。バーカウンターではイケメンのバーテンたちが、手際よく客の注文にこたえていた。僕はその非日常の雰囲気に、すっかり飲み込まれてしまい、極度に緊張していた。

「今日のメインイベントだ。さあ、楽しもう!」と永沢さんが言った。

 僕たちはバーカウンターに来た。

 大声で言わないと音楽が鳴り響いている店内では注文が通らない。僕たちはジントニックを注文した。

「乾杯!」

 永沢さんはさっそく近くでカクテルを飲んでいた女の子に話しかける。肩が出ている赤のワンピースを着ている。上の下だ。もうひとりの子は、黒のワンピースを着ている。こっちは中の上。

「そのネイルどうしたの? かわいいね」永沢さんが言った。

「ありがとう!」

「それって、本物の爪?」

「これは付け爪よ」

「なんだ、本物じゃないんだ」と永沢さんはがっかりした表情を見せた。「ところで、その長くて綺麗な髪の毛も、やっぱりかつら?」

「これは本物よ。本物に決まってるじゃない」と水色のワンピースを着ている美女は怒っている。「私はモデルの仕事もちょっとやってるんだから」

 永沢さんは彼女の顔をじっと見て、ちょっと間を置いた。「あ〜、手のモデル? 付け爪の宣伝のための」

「ちがうよ。ちゃんとした読者モデルだよ。何度か有名なファッション誌に載ったことがあるんだよ」

「ふーん」

 永沢さんはすごく綺麗な女の子に、なぜかちょっと失礼なことを言い続けていた。

 僕ももうひとりの女の子に何か話さなければ。

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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Fujisawa_bot 渡辺くんの活躍を読みなおしている。今だからこそわかることが増えた。 2年以上前 replyretweetfavorite

Fujisawa_bot 渡辺くんの活躍を読みなおしている。今だからこそわかることが増えた。 2年以上前 replyretweetfavorite

yan_kougaku 渡辺くんの活躍を読みなおしている。今だからこそわかることが増えた。 2年以上前 replyretweetfavorite

okataku321 良く出来た話とだけ思わないで吸収できるところはしたいなw 約3年前 replyretweetfavorite