chapter2-8 メタゲーム

僕は師匠から、メタゲームというものを教わる。そして、僕たちは妖精たちが暮らす楽園にたどり着いた……。

 気が付くと、タクシーはすでに六本木ヒルズに着いていた。永沢さんがタクシー代を払ってくれた。「今週は、ヨーロッパのアーティストが森美術館に出展していて、蜘蛛のオブジェがある広場は、イルミネーションが綺麗になっているらしいんだ」

 僕たちは、バーの脇にあるエスカレーターを登って、広場に出た。綺麗なイルミネーションで彩られ、眩いばかりにキラキラしていた。年頃のふたり組の女たちで溢れている。ナンパしている男たちはひとりもいない。さっきの男ばかりのバーと比べたら、ここは妖精たちが暮らす楽園のようだった。

「俺たちはメタゲームをプレイしていることを、いつも忘れちゃいけない」と永沢さんは言うと、すたすたとふたり組のほうに歩いて行って、ナンパをはじめた。「あっ、写真、撮りましょうか?」

 彼女たちは、イルミネーションをバックに写真を撮っていた。25歳ぐらいの女の子たちだ。このふたりも、街コンで出会ったどの子たちよりもかわいかった。

「えっ、ありがとうございます。お願いします。ここを押すだけです」とひとりの女の子が永沢さんに自分のスマホを渡して、友だちのところに駆けて行った。

「撮るよ。笑って」と言って、永沢さんはカシャッとスマホ画面のシャッターを押した。「もう1枚。はい、チーズ」

「あっ、ありがとうございます」

「上手く撮れてた?」

 ふたりはスマホで写真を確認している。「バッチリです。ありがとうございます」

「どこから来たの?」

 永沢さんが聞く。

「金沢です」

 白いシャツの前の胸の間を斜めに横切るように紺色のちょっと大きいかばんをたすき掛けにしている女の子がこたえた。

「私は東京に住んでるんだけど、友だちが金沢から訪ねてきて、今日はヒルズに遊びに来たんです」

「へーえ、金沢のどの辺? 金沢って鮨がおいしいよね」と永沢さんが話をつなぐ。

 彼女たちは金沢の高校時代の同級生で、ひとりが大学で東京に出てきて、そのまま東京でOLをしていて、胸の前のたすき掛けのほうが金沢で自営業をしている両親のところで働いている、ということがわかった。僕たちの仕事やどこに住んでいるかという話もした。10分やそこらの立ち話だ。永沢さんが金沢から来た子と仲良く話していて、僕はもうひとりのOLと話していた。

「今度、金沢に行ったときに連絡するよ」

「え〜、本当に来るの?」

「もちろんだよ。連絡先教えてくれる?」

 永沢さんはスマホを取り出し、当たり前のように連絡先を交換した。

 僕も東京のOLに、「連絡先教えてくれる?」と聞く。「いいよ」

 あっさりとLINE IDをゲットできた。「伊藤詩織さん?」

「うん」と詩織はうなずいた。「えっと、わたなべ君?」

「そうだよ。ところで、会社ってどこの駅だっけ?」

「私は浜松町だよ」

「そうなの?」と僕はすこし驚く。「僕は田町だからとなりじゃん」

「え〜、近いね」

「じゃあ、今度、ランチでもしない? ランチの時間って抜けられる?」

「うん、大丈夫」

「オッケー! また、連絡するね」

 僕たちは知らないふたりの女の子に話しかけ、すんなりと連絡先をゲットしたのだ。すぐに僕はメッセージを送ることを忘れなかった。文面を永沢さんにチェックしてもらうと、不必要に長い文をカットされ、短いメッセージに加工された。僕は、それをそのまま送信した。

[弁理士のわなたべです。職場が隣同士の駅なんて偶然だね! 今度ランチしましょう。]


「渡辺、さっきのはいいよ」

「どこが良かったんですか?」

「連絡先を聞いたあと、会話を続けようとしただろ」

「はい」

「電話番号やLINE IDをゲットしたあとに、すぐに立ち去ると、女は手当たり次第のナンパで、連絡先ゲットが目的だったんだ、と思いがっかりする。だから、連絡先ゲットしたあとに、しばらく会話するのはとてもいいことなんだ。ナンパも、ビリヤードのブレイクショットやゴルフのスイングといっしょで、フォロースルーが重要なんだよ」

「なるほど」と僕はうなずいた。「フォロースルーですか……」

「さらに、今回は、あのOLの勤務先がたまたま渡辺の勤務先と近かった。そして、すかさずランチの約束を取りつけた。これもいい」

「ありがとうございます」

「もう、写真オープナーの使い方はわかったよな? さっそく試してみろよ」


 僕はさっそく辺りを見渡すと、また、ヒルズのイルミネーションを背景に、携帯で写真を撮り合っているふたり組を見つけた。

「よかったら、写真撮りましょうか?」

「あっ、本当ですか?」と言って、友だちの写真を撮っていた女の子が僕に携帯を渡してくれた。

 カシャッ、カシャッ、と僕は何枚かの写真を撮った。

「ちょっと見てください。大丈夫ですか?」と言って、僕は女の子に携帯を返した。

「上手に撮れています。ありがとうございます」

「ふたりはどこから来たんですか?」

 僕が聞くと、さっきと同じように女の子たちは喜んで会話をしてくれた。

 ふたりとも埼玉から来ていて、僕に携帯を渡したほうの女の子は名前は加奈で、会社を辞めてから看護師の学校に通っているという。もうひとりのほうは名前は順子で建設会社で事務をしているとのことだった。連絡先も難なくゲットした。

 僕たちは彼女たちと別れると、またターゲットを探して歩きはじめた。


「こんなに簡単でいいんですか?」

「連絡先を聞き出しただけだぞ。喜ぶのは早いよ」と永沢さんは僕をいさめた。「どうして、女の子たちがあんなに簡単に会話してくれて、連絡先を教えてくれるかわかるか?」

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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コメント

sera_player メタゲーム(1つ外側から考える)思考はホンマに重要。ルーティーン覚えるより絶対効果的! 2年以上前 replyretweetfavorite

okataku321 やっぱり面白いなー!小説になってると更に理解しやすい! 2年以上前 replyretweetfavorite

new_marke スターバックスw こんなんやられたら絶対笑うわw 2年以上前 replyretweetfavorite