「かんぱーい!」1分後パブに到着した僕たちはさっそくビールで乾杯をした。
ふたりが僕たちの仕事を聞いてきた。僕たちもふたりの仕事や名前を質問した。そして、ふたりはどうやって知り合ったのか聞いて、僕もどうやって永沢さんと知り合ったのかを話した。それによってわかった情報は、(1)メガネのほうは名前は真希で、仕事は自動車ディーラー店の受付をしている、(2)ワンピースのほうは名前は理香子で、仕事は宝石店の店員をしている、(3)ふたりとも短大卒で、学生時代にカフェのバイトでいっしょになってからの友だち、ということだ。
街コンでは、お互いの仕事の紹介で10分間ぐらいは簡単に会話ができるということがわかってきた。さらに、どうやってふたりは知り合ったのか、を説明し合っていると、簡単に次の10分間ぐらいが過ぎていく。そうした会話から、相手の女の子との話題をふくらませるものが見つかることがある。
「いまどんな車が売れてるの?」僕は自動車ディーラー店で働いているという真希に聞いた。
「そうね。やっぱりまだハイブリッドが人気かな」
「僕は昔、回生ブレーキに関する特許に関わっていたことがあったんだ。回生ブレーキって知ってる? ブレーキをかけてるときに、バッテリーを充電するんだよ」
「聞いたことはあるんだけど、そういうのは営業の人が説明するんだよね」
「ブレーキをかけるってことは、それまで走っていた自動車を止めるってことだよね」
「ふーん」と真希。
「鉄の塊が走ってるってことは大きなエネルギーがある。それでエネルギーというのは必ず保存されて、形が変わるだけで失われることはないんだ」
「へー、そうなの」
「ふつうにブレーキをかけると、それは回っているホイールを挟んだ摩擦熱なんかで、熱に変わって外に逃げていくんだけど、回生ブレーキはそこで車の勢いを利用して、発電機を回して、バッテリーを充電するんだよ」
「なるほど、よくわからないけど、なんかすごそうね。そういえば回生ブレーキって、うちの営業の人が言ってたかも。わたなべ君って、なんでも知ってるんだね」
「こいつは本当に物知りなんだよ。まじめに付き合うなら渡辺みたいなやつがいいんじゃないかな」永沢さんが言った。
「ハハハ」と理香子が笑った。真希はニヤニヤしている。
永沢さんが時計を見てから言った。「もう、3時59分じゃないか。あっという間に時間が経つな。約束通り、20分間のグループデートはこれでお終いだ」