chapter2-2 大海原に漕ぎだした

街コンに来てはみたものの、女性とうまく話せないまま時間は過ぎていく。そんな僕とは対照的に、彼は……。

 永沢さんはやっぱりすごい。たった10分やそこらの会話で、女のハートを射抜いてしまうなんて。まん丸いメガネを掛けていても、その秘められた才能が隠しきれずに溢れだしていた。僕もいつかはこんなふうに女を魅了できるようになりたい、と強く思った。

 由佳が、「弁理士とファンドマネジャーがどうやって知り合ったんですか?」と聞いた。

「永沢さんの会社が、特許侵害に関する調査をうちに依頼してきて、その仕事を受け持ったのが僕でした。それで永沢さんと知りあったんです。この前、飲みに行ったときに、僕が彼女と別れたって話をしたら、永沢さんが今日誘ってくれたんです」

「へえ、わたなべ君は恋人募集中なのね」と由佳が言った。恵子もふんふんと僕の話を聞きながら、ずっと聞きたかったであろうことを口に出した。

「圭一さんは、彼女とかいないんですか?」

「特定の人はいないよ」永沢さんはあっさりこたえた。

「え〜、本当ですか?」と由佳がうたがう。永沢さんが不敵な笑みを浮かべた。

「結婚とか、考えてないんですか?」恵子が永沢さんに、積極的に質問する。気があるのだろう。

「いい人がいたらね」永沢さんはさらりとこたえた。「ふーん」と恵子が納得していない顔をしていると、店員が「そろそろ席替えの時間です。まだ連絡先の交換などしていない方はお願いします」とマイクでアナウンスした。

「じゃあ、LINE交換しようか?」と永沢さんが自分の携帯を取り出した。「あっ、はい」と恵子が嬉しそうに携帯を取り出す。僕と由佳も携帯を取り出した。

「QRコード見せてくれる?」と永沢さんが言うと、「QRコードってどうやるんだったっけ?」と恵子が聞いた。「ちょっと見ていい?」と永沢さんが言うと、恵子が自分の携帯を永沢さんに渡した。永沢さんは自分の携帯のカメラで彼女の白と黒のモザイク模様のQRコードを読み取った。永沢さんは簡単にメッセージのやりとりをした。「あっ、スタンプ届いたよ」

 永沢さんのやり方を真似して、僕も由佳のLINE IDをすかさずゲットした。次に、永沢さんと由佳、僕と恵子もLINE IDを交換した。僕と永沢さんは彼女らに軽く挨拶をしてから、店員に促され、テーブルを後にした。

 ふたりの女性と知り合い、連絡先をゲットしたのだ!

 僕が乗った船は、ついに大海原に漕ぎだしたようだ。見習い船乗りの僕は、船頭の永沢の一挙手一投足から航海の仕方を学ぼうとしていた。


 僕たちは次のふたり組のテーブルに来た。

 由佳と恵子がふつうよりちょっとかわいいとしたら、こちらのふたりは、永沢さんの向かいのほうがふつうより明らかに美人で、僕の前にいるほうがふつうとブスの間だ。ちょっと太ってもいる。

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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kuniken_817 恋愛工学テクノロジー、次号はさすがに有料か?> 3年弱前 replyretweetfavorite

satoshifuziwara イエスセット!若い時にもっとポジティブに生きればよかった… 3年弱前 replyretweetfavorite

gevvoihorry さすがに面白い "@cakes_PR: 週刊金融日記の著者・藤沢数希さん @kazu_fujisawa の小説「ぼくは愛を証明しようと思う。」が更新されました! " 3年弱前 replyretweetfavorite