第1回】中国で活躍する日本人女優が、反日デモのさなかで感じたこと

中国で活躍する日本人女優の莉璃さんをご存じでしょうか? 単身中国にわたり名門の演劇学校で奨学金を得て勉強し、人気ドラマ『鋼鉄年代』で一躍スターとなった彼女は、『レッドクリフ』など大作映画の脚本翻訳、SMAPやEXILEといった人気アーティストの中国公演のディレクターなどもつとめ、女優にとどまらずさまざまな分野で活躍しています。そんな莉璃さんが見た現代中国のありのままの姿とは? 莉璃さんの友人で、日本と中国・米国を行き来しながら活躍するブランド経営ストラテジストである坂之上洋子さんとの対話をとおして明らかにしていきます。


左から莉璃さん、坂之上洋子さん

放映中に人気が高まり、ほぼ主役に

坂之上洋子(以下、坂之上)  莉璃 りり ちゃん、こんにちは。今回の対談では中国で活躍する女優の莉璃ちゃんから、現地のようすや、現地の人たちが実際に日本に抱いているイメージなど、ありのままの中国の話を聞ければと思っています。
 cakesの読者というか日本のみなさんは、あんまり莉璃ちゃんのことを知らない人も多いと思うので、まずは莉璃ちゃんの紹介からかな。

莉璃 はい。光栄です。日本デビュー(笑)。

坂之上 莉璃ちゃんは中国で本当に活躍してるのに、日本のメディアで全く知られてない人だよね?

莉璃 福岡から北京に留学に直接行ったので、東京のメディアのコネクションとかが全くないのです。日本の芸能界でも全く何の活動もしてないので。

坂之上 でも、中国ではいろいろなドラマに出ているし、賞も受賞したこともあるんだよね。

莉璃 はい。受賞は『鋼鉄年代』というドラマに出させていただいたときですね。はじめ準主役だったのですが、放映の途中で私の人気が出たことで脚本が書き直されて、最後は、ほぼ主役みたいな感じになって。最終的に、飛天賞という、日本のブルーリボン賞くらい権威のある賞で2位をとったんです。

坂之上 すごいな。『鋼鉄年代』はどんな内容のドラマだったの?

莉璃 1950年代の東北省の鉄工所が舞台で、私は日本人女性の鈴木加代という役です。加代は主人公である工場長のことが好きで好きでたまらなくて、積極的に追っかけ回すんです。それでついに2人は結婚かというところまでいくのですが、工場長は共産党のエリートなので日本人の妻は困るということになって、結局2人は別れを選択し、加代は傷心のまま日本に帰っていくという話でした。


工場長役の陳宝国さんと歩く莉璃さん。
陳さんは中国でW陳(陳宝国さんと陳道明さん)と呼ばれるほどの大スターです。

坂之上 え、そんな日本人と中国人との大恋愛の話が中国で大人気だったの?

莉璃 はい。3年前は、まだ対日感情がそんなに悪くなかったんですよね。

坂之上 視聴率はどのくらい?

莉璃 めちゃめちゃよかったです! 日本で言えば30%は余裕で超えていました。

坂之上 外でサインしてくださいとか、声かけられるようになった?

莉璃 そうですね。顔を見た人に「あ~!」って言われたり。

突如ふりかかった尖閣諸島問題

坂之上 で、そこから大女優への道を突っ走っていこうとしたところで、2年前の9月に尖閣諸島の問題が勃発するわけね。

莉璃 そう……。あの頃よく言われたのが「あなたが日本人じゃなかったら」とか「もしあなたが中国人女優だったら」とかいう言葉。有名な脚本家からも「次回作の主演をやらせるならお前だ」とおっしゃってくださっていたのに。

坂之上 全部干された。

莉璃 中国人役として撮影も途中まで進んでいた役ですら、デモの影響で降板になりました。

坂之上 自分のせいじゃないのに突然仕事を全部干されるって、相当辛かったでしょう。

莉璃 実は女優をやめようと思っていたんです。これ以上続けられないな、って思って。

デモの影響で降板になったドラマでの莉璃さん。パイロットと結婚・離婚後、
元夫に新しい恋人が出来たと知って邪魔しにくる中国人の役だったそうです。

坂之上 日本に帰ることは考えなかったの?

莉璃 う~ん。なぜだかなりませんでした。まわりに私をかばってくれる人がたくさんいたからかもしれないです。実は、デモがはじまったときに、先輩の大女優さんが「危ないから今すぐ家においで」って電話をくれて、自宅にかくまってくれたのです。しかも、その女優さんのおじいさんは、日本と戦った英雄として中国人なら誰もが知っているような歴史的に有名な方だったのに。

坂之上 一番先頭にたって、日本批判をしてもおかしくないような人だよね。

莉璃 はい。芸能界でも超有名な方なんですよ。だからあんな時期に、日本人の私を家に泊めていた事実が何かの拍子に周囲に知られていたら、大変なことになったと思う。

坂之上 でも、そんな彼女が日本人である莉璃ちゃんを家にかくまってくれたと。

莉璃 はい。何かあったらいけない、って。私、当時日本大使館のそばに住んでいて、ちょうどそこがデモの中心地になっていたんです。彼女、私のマンションに自分の車をだして迎えにきてくれたの。

坂之上 なかなか感動的な話だね。

デモがあったからこそ気づけた、裏方の楽しさ

莉璃 彼女以外の、まわりの中国人もみんなやさしかったです。少したつと状況も把握できて、やはりデモも一部の人だけ、という感じもありました。

坂之上 そうなんだ。今の状況はどうなの? 最近は、また映画にも出ているんだよね?

莉璃 はい。もちろん、今でも日本人の役者は使いたくないとか、日本人に仕事を紹介したら自分に火の粉がかかるかも、と思っている人はいます。でもそれってしかたないと思うんです。だってビジネスですから、日本人が大きな役で入っているから放送取りやめ……なんてことになったら大変ですもん。でも、その一方で、国籍なんて関係ない、本当に私を使いたいとおっしゃって連絡をくださる方もいます。
 たとえばジャン・ウェン(姜文)※1 監督なんかは、ものすごくリベラルな方で、国籍とか全く気にしていない。今年12月に『一歩之遥(Gone With The Bullets)』という大作映画が公開されるのですが、それに出させてもらったんです。

※1 中国を代表する俳優・映画監督。出演作品に『宋家の三姉妹』『芙蓉鎮』など。監督作品に、中国歴代興行収入1位(当時)となった『さらば復讐の狼』がある。

坂之上 ジャン・ウェンは世界的に有名な監督だよね。『一歩之遥』は、今年カンヌにも出品されたんでしょ。

ジャン•ウェン監督(姜文監督)新作映画『一歩之遥』のイメージ写真。

莉璃 はい。私、今年のカンヌ出品の作品に2つ関わっていたんですよ。

坂之上 へぇ、どの映画?

莉璃 今お話した『一歩之遥』と、もう1つは『太平輪(The Crossing)』という作品です。『太平輪』は『レッドクリフ』のジョン・ウー(呉宇森)監督が最後の作品だと言っている作品で、日本からは金城武さん、黒木瞳さん、長澤まさみさんらが出演しています。

坂之上 『太平輪』には、どんな役で出ているの?

莉璃 実はこちらのほうは裏方でかかわっているんです。最初は出演しないかとお話をいただいたんですが、私の年齢に合う役がどうしてもなくて。それで、脚本の翻訳をやらないかというお話をいただきました。映画の脚本って、たぶんテレビドラマを何十本やっても勉強できないことが1本で学べるから、もうすっごく楽しかったです。

坂之上 へぇ、裏方もするんだ。それは前からやっていたの?

莉璃 『レッドクリフ』の翻訳などもやっていました。でも、デモで仕事が激減していた時期に、このまま女優を続けるのか、どうしていいのかわかんなくなって、自分でもいっぱいいっぱいでわーってなったんです。その結果、裏方の仕事について、すごくいろいろ考えられたので、今楽しいんだと思います。

坂之上 デモのおかげで深く考える時間ができたってこと?

莉璃 はい、今思えばありがたかったです。その後、SMAPやEXILEの北京公演でディレクターとして中国側の仕切りを全部やらせてもらったりもしたんですよ。

坂之上 え? そうなの?

莉璃 はい。そういうお仕事もやって、裏の楽しさを知りましたし、もしかしたら私そっちの方が才能あるのかも?という新しい発見もありました。(笑)

坂之上 それはまさに「every clouds has a silver lining」※2 だね。私、辛いことがあるといつもこの言葉を念仏のように唱えるんだけど。

※2 直訳すると、「どの雲にも銀の裏地がついている」。どんな暗雲でも反対側には太陽が照っていて銀色に輝いているということから、どんな辛い時にも、良いことが隠れているという意味。

莉璃 本当に。この間も、お芝居の演出を初めてやらせてもらって、それが成功したんです。本格的なミュージカルの演出家としてやってみたいな、と思うようになりました。今は、女優業よりもそっちに夢中な感じ。

坂之上 莉璃ちゃん、おもしろい話いっぱい持っていそうだよね。

莉璃 はい。いっぱいありますよ! たぶん日本人の人が聞いたら驚くような。中国で人気のAV女優さんの話とか。

坂之上 え。それ話すの? cakesの読者は喜んでくれそうだけど(笑)。

(次回につづく)

構成:橋口いずみ

この連載について

中国のありのまま、話します。

莉璃 /坂之上洋子

中国で活躍する日本人女優の莉璃さんをご存じでしょうか? 単身中国にわたり名門の演劇学校で奨学金を得て勉強し、人気ドラマ『鋼鉄年代』で一躍スターとなった彼女は、『レッドクリフ』など大作映画の脚本翻訳、SMAPやEXILEといった人気アー...もっと読む

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