​【第33回】昭和と戦争を蘇らせる「神事」としての高校野球

ライターふたりの時事放談、今回は高校野球を取り上げます。球場の"外側"も大変盛り上がった今年の甲子園。おにぎりマネージャー問題を始め、ネット上ではさまざまな声が上がりました。さらに、軟式野球の全国大会の準決勝でも、延長50回まで行われた試合に賛否の声があがっています。世界的に見ればマイナースポーツである野球の、しかも高校生の試合になぜ日本人はここまで熱くなるのでしょうか?

8月4週目のおもな出来事
・何者かが盲導犬を刺す 被害男性「これは自分の“傷”」(8月25日)
・デング熱 70年ぶりに国内感染(8月27日)
・アギーレジャパンが初のメンバー発表 5選手が初選出(8月28日)
・「ハローキティは猫じゃない」サンリオが明かした事実に世界中が激震(8月28日)
・TOKIO城島(43) 24時間テレビで101キロ完走(8月31日)

高校野球は炎上ネタがてんこ盛り

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 今年の夏は高校野球がいろいろと話題になりました。

速水健朗(以下、速水) 高校野球は夏の最重要イベントだから振り返らないとだめだね。でも、興味ないでしょ?

おぐら 熱心に追いかけてはいないですけど、これでも小学生のときは少年野球やってたんですよ。

速水 じゃあとりあえず、新しめの話題からすると延長50回の話。全国高校軟式野球選手権大会の準決勝で、岐阜の中京高校と広島の崇徳高校が、4日間に渡り延長50回の死闘を繰り広げた。

おぐら 手元の資料だと、中京の松井投手は709球、崇徳の石岡投手は689球投げたそうです。やっぱりこの数字は異常なんですか?

速水 『ファミスタ』だって、そんなに投げられないでしょ。ライターの松谷創一郎が、「『残酷ショー』としての高校野球」っていう見出しの記事で、指導者、連盟、マスメディア批判の記事を書いた*1。おもしろいのは、この記事への反応の多くは、反発だったってとこ。「球児たちの健闘を称える」という意見と、記事の書き手に対して、「おまえは500球投げたことないだろう」という批判がたくさん投げつけられた。
*1 「残酷ショー」としての高校野球

おぐら たとえば映画の批評においては「おまえは映画撮ったことないだろう」という反論には意味がないって散々言われてきましたが、野球にはまだあるんですね。この話題はニュースでもやってましたけど、批判的な感じではなく球児たちの健闘を称える系でした。

速水 実は僕も「称えるべき」派なんだよね。お説教くさい正論よりも、感動を大事にしようぜっていうのがマジョリティの意見なんだよ。これは、「24時間テレビマラソン」に医学的な批判を加えるのが野暮なのと一緒だね。

おぐら 声援とあわせて、「あんなに走らせるのは危険」の声も大きいです。ちなみに「本当に100km走っているのか?」もセットですね。

速水 あと高校野球は教育の一環というのも欺瞞くさいよね。むしろ「バトル・ロワイアル」であると思えばいいんじゃないかな。「バトル・ロワイアル」は社会実験の対象に選ばれてしまった子たちが、実験的に殺し合いをさせられる話なんだけど。国民的関心事としての甲子園ってそんなだよね。

おぐら フィクション的に見ている人は多いでしょうね。まさに残酷ショー。

速水 だって国民全員が野球やるわけじゃなくて、甲子園に行けるのなんて、1万人に1人レベルでしょ。日本の将来を生きるこの子たちが連投のせいで肩が壊れたらどうするんだっていったところで、極めて少数の事例なわけでさ。

おぐら 極論としてはありかもしれないですけどね。

速水 まあ、極論として。でもそもそもさ、高校野球って矛盾の塊だよ。炎上ネタは、いくらでもある。そもそも、「いじめられる側」がマジョリティのネット的には、炎上要素の塊だよね。丸坊主で汗臭い高校球児が「さわやか」と呼ばれる欺瞞ってあるでしょ。甲子園の常連校なんて、地元じゃ特別扱いされて、万引きすら許されるなんて話もあるくらいだしさ。

おぐら 僕が思春期に家で本や雑誌ばっかり読んでいたら親に「少しは外で運動しなさい」と言われていたように、家にこもっているから頭がおかしくなって犯罪に走るんだ、外で運動している人が正常ないい人だみたいに考えている人がいますけど、一理あるとはいえ、全部がそうではない。実際、体育会系にはガラの悪い人も多いです。でも、そんな価値観もあって、社会的には甲子園出場の経歴はすごく優遇されますよね。そういった社会的評価の大きな差が、ネット的には叩きたくなるんでしょう。

速水 かわいいマネージャーがいるってだけでも許しがたい。

おぐら 実際に炎上しましたね、「女子マネージャーおにぎり2万個」事件。春日部共栄高校の女子マネージャーが、男子部員のために2年間で2万個のおにぎりと握ったというエピソードがTwitterで紹介された際に、この女子マネージャーがおにぎり作りに集中するために難関大学受験の選抜クラスから普通クラスに転籍したっていう紹介のされ方をして。

速水 マネージャーは悪くなかった。この子の談話を、男子がやる野球部の活動のために自分の人生を犠牲にしてる女子マネージャーという話にねじ曲げて、無理に美談にしようとした朝日新聞のツイートが問題。

おぐら 「受験のほうが大事だろ!」「なぜ教師は転籍を止めなかったんだ!」的な将来を懸念する論調の批判にはじまり、さらに内助の功や専業主婦といった“外で成果を出す男と内で支える女”といった前時代の性差別も連想させて、ネットは大騒ぎでした*2
*2 春日部共栄 おにぎり作り“女神”マネ

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すべてのニュースは賞味期限切れである

おぐらりゅうじ /速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

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コメント

elderly_web_1  昭和と戦争を蘇らせる「神事」としての高校野球  http://t.co/5DuWqFXmpu  銃後は女が守るという、古い総力戦時代の戦争の美学でもって朝日のTwitterは「おにぎり2万個」を美談にしようとしてしまった。甲子園と太平洋戦争を混同してしまっている。 3年以上前 replyretweetfavorite

Carry_Pan_ 高校野球と戦争は限りなく近いっていう話は大人になってからよくわかるようになった 3年以上前 replyretweetfavorite

mas_shi  おにぎりマネの経緯も初耳だったけど 3年以上前 replyretweetfavorite

matomotei 2件のコメント http://t.co/KE4VtYVJFX 3年以上前 replyretweetfavorite