AKB48の内山奈月さんと『憲法主義』共著者で憲法学者の南野森さん
握手会に弁護士さんがやってきた
—— 『憲法主義』、読みました。憲法学者である南野森先生から内山さんが講義を受けている形式が、本当にわかりやすくておもしろかったです。「とても良かった」という感想がインターネット上でもたくさん見られます。
内山奈月(以下、内山) ありがとうございます!
—— 朝日新聞の「天声人語」でも取り上げられていました。「恋愛禁止は憲法違反か」「パパラッチと表現の自由」など、憲法に興味のない人でも読みやすい内容ですよね。発売からしばらく経ちましたが、ファンの方からはどんな反響がありましたか。
内山 最初はびっくりされました。私はいままで、大学に通っていることなんかもあまり公言してきませんでしたし、このしゃべり方からものんびりしたキャラだと思われている……と思うんです。それなのに難しそうな本を出したっていう、そのギャップに驚かれた方が多いみたいです。
でもおかげで、今まで私のことを知らなかった方にも握手会に来ていただいたり、「『憲法主義』素敵な本だね、初めて知ったけどなっきーのことが好きになったよ!」なんていうコメントをぐぐたす(Google+)にもいただいたり、嬉しい反応がたくさん増えました。この間なんか、弁護士さんや法曹の方も握手会にいらっしゃったんですよ!
—— それはすごいですね。もう、そういう新しいファンの方が出てきているとは。本を出したい、とこれまでに考えたことはありましたか?
内山 まったくありませんでした。本当に予想外の出来事です。
—— それなら、他のAKB48メンバーの方も驚いていたのでは。
内山 やっぱり、びっくりしてましたね。すごいね〜、と言われました。同期(14期)は、私の特技のなかに憲法暗誦がある、ということはもともと知っていたんです。「有吉AKB共和国」などのバラエティ番組に出してもらえるようになった頃に、それぞれ特技を紹介しないといけないということで、アピールしていたんですよ。でも、バラエティ番組で憲法に触れるのってちょっと難しいですよね。結局、当時は「しゃもじが口に入ります!」という別の技を披露しました(笑)。
『方丈記』や『奥の細道』を暗誦しているうちに
—— もともと、小学生のときに憲法に興味を持ったとうかがいました。
内山 社会の授業で9条や25条を覚えたので、それをきっかけに興味をもちました。その頃は、憲法自体に興味を持ったというよりは、暗誦すること自体が好きだったんです。その前も『方丈記』や、『奥の細道』を覚えていて。
—— 『憲法主義』を読んですごいなと思ったのが、内山さんが、ただ文面を暗記しているだけじゃなくて、書かれていることの意味や用語の関係性をちゃんと理解していることでした。
内山 覚えたばかりの頃はわかっていなかったです。ただぶつぶつ、交戦権がナントカ、とか覚えていただけで……。高校生になっても完全に理解してたわけではありませんでした。でも南野先生の授業で憲法の本質を学んで、たとえば「憲法が最高法規であるというのは憲法に反する法律が無効になるという意味だ」などといった、文字には書かれていない深い意味を知って、ますます興味がわきました。
—— 授業を受けている最中は、どんな気持ちでしたか?
内山 受ける前は緊張していたんですが、南野先生の優しいお人柄のおかげでとっても楽しかったです! ただ一方的にお話を聞くだけではなくて、キャッチボール形式の授業だったので、すぐに本当に興味を持って質問できるようになって。素敵な二日間でした。また授業を受けたいです。
今回南野先生からは、憲法の知識だけではなくなにかを学ぶこと自体の意味も教えていただきました。自分から学び、教わったことを深めていく姿勢の大切さを知ったことが、色んな場面で活きていると思います。
—— 本のなかで南野先生が、「(あなたに公民を教えたのは)すごくいい先生だね」とおっしゃっていましたね。
内山 そうなんです。私はその先生しか知らないのでその実感がなかったんですけど、南野先生とのやりとりで本当に良い授業を受けられたんだなって思いました。今度、高校にお礼に行こうと思っているんです。この間、学校に電話はしたんですけどね。電話をとってくださった先生が、「『天声人語』読んだよ、学校内で話題になってるよ」 と教えてくれました。母校に恩返しができたというか、卒業生としてそういう結果を残す事ができて誇らしいです。
アイドルは平等じゃない、だからこそ努力する
—— 内山さんがAKB48の研究生になったのは高校生のときでしたね。Google+の記事を読んでいると、とてもユニークな高校だという印象を受けます。授業で宇宙研究所に行ったり。地学がお好きだったんですよね。
内山 そうなんです。それぞれの先生が得意分野のことを深く知っていて、良い意味でオタクでした。地学も、先生の授業が面白かったから好きになったんです。200万年前のことをつい最近のことのようにお話しされる先生でした。「最近あった地殻変動でね……」みたいな。その先生に言われた「お金を払って宇宙に行くんじゃなくて、お金をもらって宇宙に行けるような人になりなさい」という言葉はすごく印象に残っています。自分がお金をもらってその研究に携わるような、必要とされる人間になりたいと思いました。
—— 今回の本でそれに近づきましたね。もともとは理系で、三年生のときに文転したそうですが……。
内山 AKBと学業の両立を考えてそう選択しました。
—— どちらにも全力を出すための選択だったんですね。自分の長所として、努力家であると書かれていたことがありますが、本当にそうだなと思います。
内山 努力せざるを得ない状況だった、というのもあります。AKBってとても人数が多いじゃないですか。選抜メンバー、公演メンバー、とそれぞれ16人ずつしか選ばれない。露出の機会がそれぞれ平等に与えられているわけではないし、確実にいつももらえるとは限りません。
そういう状況のなかでも、少しの時間やチャンスを活かして、内山奈月を知ってもらえたらいいなと思って活動しています。いかに自分にしかない長所をアピールできるか、いかに皆と違うことを言えるかということはいつも意識して。できているかは別として、そうあろうと努めていますね。
—— 今回の本は、その努力の結晶ですね。
内山 そうですね、他の誰にもできない、私だけのお仕事ができたかなと思っています。今回cakesさんにこうやって、私だけを取材しにきていただけているというのもとってもうれしいんです!
(中編「憲法を暗誦するアイドルができるまで」につづく)
聞き手・構成:小池みき
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