【ハーレクイン豆知識:RITA賞】
今作はRITA賞を2度も受賞したベテラン作家、カーラ・ケリーの作品。RITA賞とは、ロマンス小説界のアカデミー賞みたいなもの。ロマンス小説のメッカであるアメリカには「アメリカロマンス作家協会(Romance Writers of America)」というロマンス小説の作家や関係者で構成される団体まであり、その協会が毎年約2,000点の候補作品の中からコンテンポラリー部門やヒストリカル部門など11部門にわたって選出する、ロマンス小説界の最高権威とも言うべき賞です。
【作品紹介】
見知らぬ土地でお金もなく、これからいったいどうすればいいの? 老夫人のコンパニオンをしているサリーは、ようやく決まった次の勤め先を訪ねたところ、雇い主が亡くなったと知らされ目の前が真っ暗になった。馬車の運賃を払った今、乏しい蓄えは底をつき、宿代さえない……。サリーは途方に暮れ、最後の銀貨を握りしめて紅茶を頼んだ。すると、見知らぬ紳士が声をかけてきた。困り果てた様子の彼女を放っておけなかったという親切な貴紳、海軍提督チャールズ卿は、サリーの話を聞くと驚くべきことを申し出た——彼との結婚を。
叩きもしなければ、その場で気を失いもしなかった。それだけでも立派なものだ。
おそらく、頭がおかしいと思っているのだろう。チャールズは彼女の考えていることを見抜こうとしながら、言葉を続けた。いまの彼は嘘を重ねれば重ねるほど早口になる大嫌いなタイプの部下にそっくりだ。いや、これは嘘ではない!彼は訂正した。
「きみの前にいるのは、藁にもすがりたい男だ」チャールズはそう言いながら、内心たじろいだ。なんと説得力に欠ける説明だ。「わたしは明日にも妻が必要なんだ」くそ、こっちのほうがもっとひどい。
感心なことに、ミセス・ポールはすぐにショックから立ち直った。どうやら、彼の言葉を真に受けた様子はこれっぽっちもない。おそらく、昼食をおごったくらいで厚かましくも言い寄ろうとしている男に、自分があさましい企みについてどう考えているかはっきり知らせるつもりなのだろう。どうすれば説得できるのだろう?チャールズは絶望にかられながら自問した。いや、そんな方法はなさそうだ。
「ミセス・ポール、この国が危機に瀕しているときに、わが国の海軍を率いていたのがとんでもない愚か者だったとは思わないだろう?」