「遺言書なら私だって預かっているわ」「笑わせないで。私が持っている遺言書が本物よ」
父親の死後、遺産分割の協議をする段階になって、長男しか持っていないはずの遺言書を、長女と次女も持っていた──。
富裕層の資産を管理している、税理士法人や信託銀行などの担当者にとって、そうした骨肉の「争族」の現場に立ち会うことは決して珍しくない。「悩んでいるうちに対策が後手に回ることが多い」(大手税理士法人)からだ。
ここでは、富裕層の間で特に問題になりやすい土地に絡んだ相続のトラブルと主な対応策について紹介していこう。
まずトラブルにつながる代表的な事例として挙げられるのが、「家督相続」の慣習だ。
戦後の1947年に家督相続の制度は廃止になったものの、長男など家の跡継ぎになる人に、先祖代々の土地の大部分を相続させたいと考える富裕層は多い。
一方で、跡継ぎを極端に優遇するような考えは、今の子供たちの世代には理解されにくい。反発する子供たちにその場しのぎで対応した結果、冒頭の事例のように死後に遺言書が3通も出てくるようなことが起こってしまうのだ。
もちろん、跡継ぎ以外の子供に土地に代わるだけの現金を相続させることができれば、問題は起きにくい。ただ、多くの地主は土地を持っていても、子供たちに平等に分け与えるだけの現金は持っていないことが多い。
みずほ信託銀行によれば、地主の典型的な資産構成は不動産が大半で、現預金の割合は1割前後しかないという。
現預金が少ないという状況は、別の問題も引き起こす。先祖代々の土地を売るといった対策をしなければ、相続税の納税原資を確保できないという問題だ。
納税原資を捻出するためとはいえ、代々受け継がれてきた土地を売ることに強い抵抗があるという地主は少なくない。そのため、今ある土地すべてを守るのは難しいことを理解してもらいながら、「守るべき土地と、運用や納税に回す土地をはっきりさせる」(みずほ信託コンサルティング部)ことから相続税の対策が始まるという(図2‐10参照)。
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