※本連載には、刺激的な内容・画像などがふくまれています。職場や公共の空間での閲覧にはご注意ください。
乳首は誰もが持つ「快楽器官」である
岡田育(以下、岡田) さて、東京五反田のゲンロンカフェにて、いよいよ「五反田雄っぱい会議」を始めたいと思いますが……前回の「五反田アナル会議*」に引き続き、今回もお客さんの数がすごいですね。会場中、座席がびっしり埋まってます……!
二村ヒトシ(以下、二村) みなさん、それだけ男の乳首や男の身体に、なみなみならぬ関心がおありだということでしょうね。
岡田 前回の「アナル会議」もおかげさまで大好評をいただいたわけですが、強いて述べるなら反省点として、「我々は穴にかまけすぎた」な、と。他にも語るべき快楽器官はいろいろあるのではないかと。そこで続編にあたる今回は「雄っぱい」がテーマです。男性の胸をあらわす造語で、最近ボーイズラブ業界で見かけるようになりましたね。主には「乳首」を中心に、雄っぱいへの知見を深めていきます。
二村さんは以前から、女性による男性の「乳首なめ」AVを作った第一人者だ、というお話をされていますよね。
二村 はい、それはもう「男の乳首といえば二村、二村といえば男の乳首」というくらいのもんでございまして。僕はもともとAV男優をやっていたのですが、当時、女優さんに乳首を触ってもらわなければチンコが勃たなかったんですよ。
(会場どよめく)
岡田 ……えー、みなさんツッコミたがっていると思うので、スライドに表示されている右上の写真を拡大しみましょう。これはどういう写真ですか?
二村 これはAV女優さんに乳首をいじられているんですね。私が。
岡田 二村さんの監督作品には、必ずこうやって男性が乳首をいじられるシーンが入っているんですよね。
二村 そうですね。あぁ、なんだかだんだん恥ずかしくなってきた……。
金田 全然恥ずかしくないですよ! いいじゃないですか、乳首で感じるなんて。世の中には乳首から乳が出る男性もいるくらいなんですよ。
岡田 と、いいますと?
金田 70~80年代に、朝日系列のテレビ番組で『ラブアタック!』という、素人の男性数名と女性一人をマッチングさせるという番組があったんですが、そのなかに、「母乳が出ること」を自己のアピールポイントとしている男性がいたんです。私は彼が番組内で母乳をとばすのをはっきり見ました。
(会場どよめく)
岡田 男の乳首からも乳は出る……と。この場合、母乳っていうのかな。父乳?
金田 その人は結局、女性から選ばれていませんでしたけど、私なら確実に彼を選びますね。いまだに、彼の得意げな顔が忘れられないです……。あれが私が雄っぱいに興味を持った原点かもしれません。岡田さんはいかがですか?
岡田 私はさすがにそこまでのエピソードはないですが……(笑)。あのですね、男性の服の下から乳首が透けて見えている、「透け乳首」が気になってしょうがないんですよ。
金田 なる、なる!
岡田 夏場は特に気になります。女性の乳首は大抵ブラジャーで覆われてますけど、男性はポツポツが丸見えでしょう。道行く人の透け乳首は目で追っちゃうし、会話をする機会なんかあると、つい気になって話しながらずっと見つめてしまうんですよ。
金田 私はガン見しちゃいますけどね。
岡田 でもやっぱりそれって、女性の胸の谷間ばかり見ている男と同じで、相手に失礼じゃないですか。「こいつは俺のセックスシンボルにばかり気にして、俺の人格が蔑ろにされている」って思われるかもしれない……申し訳ないです。
金田 そんなこと気にしなくていいんですよ。彼らが見せているんですから!
岡田 ……というわけで三者三様、雄っぱいへの思い入れを話していきます。二次元の雄っぱい、三次元の雄っぱいそれぞれに迫りつつ、後半は雄っぱいの秘密の一端を教えてくださる驚きのゲストも登場予定です。「やおい穴」に匹敵する雄っぱいの神秘に迫っていきましょう!
国民的少年漫画の雄っぱい3パターン
岡田 「透け乳首」問題もそうですが、男性の乳首って、「あるのにないもの」として無視されることが多いんですよね。わたしがずっと気になっているのは、「少年漫画における雄っぱい・乳首表現」です。やたら上半身ハダカになるくせに、そこに乳首が描いていなかったりすると、もう気になって気になって……。 少年漫画における雄っぱいを語る上で欠かせない作品といえば、『ドラゴンボール』『ワンピース』『トリコ』。それぞれの主人公の上半身がどうなっているか、思い浮かびますか?
二村 どれも国民人気少年漫画ですけど、ちょっと思い浮かばないな……。
岡田 まずトリコ。彼の場合は乳首がありませんね。筋骨隆々のムキムキに描かれているのに、乳輪すらない。いわゆる「乳袋」です。「少年ジャンプ」誌上の『トリコ』世界では、上半身裸の屈強な男たちはみんな、乳首がないことになっているんです。でも、まぁ、エロ同人誌になると描かれてるんですけどね。
二村 ええっ!!
岡田 私の観測した限り、トリコ受けの18禁やおい同人誌では、原作で描かれない乳首がやたらと責められ、強調して描かれることが多い。乳首がついた途端、見慣れているはずのトリコの半裸に、「見てはいけないものを見てしまった」感が強まります。
二村 少年漫画では、乳首が描かれないものが多いんですか?
岡田 それが、必ずしも完全に描かれないわけではないんですよ。次に『ドラゴンボール』の孫悟空を見てみましょう。
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岡田 ほら、乳輪だけが描かれていますね。乳頭がない。
金田 これは、気になりますよね。
岡田 「何なんだ、その胸元にある丸は?」ってツッコミたくなりますよね。ニップレスかよ、と。
金田 『ドラゴンボール』のアニメを観ていても、乳首にしか目がいかない!
岡田 「乳頭はどこへいったのか」「色はどうなっているのか」とかいろいろ考えちゃいます。
二村 たしかに、どうして鳥山明先生はこうした描き方を選んだのか……。
金田 以前聞いた説で私がすごく腑に落ちたのは、「悟空の乳首は車のライトと同じなんだ」説です。
二村 え、ライトみたいについたり消えたりするってこと?
金田 鳥山明先生は車を描くのがすごく好きな方なんですよ。だから先生は車のフロント部分を描くのと同じ感覚で男子の胸板を描いているのではないかと。それでどことなく車のライトのようなテイストで乳首を描いてしまうんじゃないかという指摘なんです。
岡田 あ——、なるほど! たしかに車のフロントっぽく見えてきました!!
二村 もしかしたらライトと同じで、ときどきパッシングしてるのかもしれないよ。鳥山先生が読者に気づかれないように、こっそり誰かに向けて発しているメッセージが、雄っぱいなのかもしれない。
金田 宇宙人との交信とか?
二村 そうですね。宇宙的な交信ですよ。
乳首を描かれた男は性的な存在になる?
岡田 で、いよいよ問題の『ワンピース』です。『ワンピース』の特徴は「隠される雄っぱい」です。主人公のルフィが典型ですね。前開きの赤い上着がトレードマークですが、ボタンをはずして腹筋を見せつけることはあっても、乳首の有無は容易には教えてくれない。毎回毎回、うまいこと胸元だけが隠れている。どんなにきわどいミニスカートでも中のパンツは絶対見えない、というのに酷似した表現です。
金田 そうそう。服で乳首が隠れちゃっているんですよね。
岡田 海賊漫画なのにね! でも、描いていないわけではないんです。たとえば、全員集合したカラーイラストなどで、女子は水着、男は上半身ハダカ、といったシチュエーションはあって、それで男性キャラクター全員に乳首が描かれていることもあります。しかし、それは孫悟空の系譜にあるすごく消極的な描写。「できれば描きたくない! 女の胸だけ描いてたい!」という尾田栄一郎先生の叫びが聞こえてくる気すらするんです。しかしながら、そんな作中で一人だけ、常にデフォルトで乳首をさらしている男がいる……我らがポートガス・D・エースです!
ONE PIECE カラー版 18 (ジャンプコミックスDIGITAL)
二村 おお。まごうことなく乳首がありますね。
岡田 『ワンピース』世界の男たちには、たしかに乳首があるはずなのに、普段は滅多に見せてくれない。だからエースが出てくると「久しぶりにいい乳首を見たぜ!」ってスカッとした気分になりますよね。弟のルフィとその仲間たちが乳首を見せようともしないのに、後から登場した兄のエースが丸見え……もう、パンチラ要員ならぬ雄っぱいポロリ要員ですよ。そりゃ腐女子人気も高まりますよ。すなわち、エースは総受け!!
二村 総受け……! 受けのなかの受け、オトコの中のオトコってことですね。
金田 まあ、アナル的に見ると、むしろオトコを中に入れて包むオトコですね!
岡田 トリコのエロ同人誌、および『ワンピース』世界におけるエースから、「男は乳首を発見された途端、性的な存在と見なされてしまうのではないか?」という仮説が生まれます。少年漫画の世界を健全に保つために、乳首などあらかじめなかったことにして絵に描かない、という判断も賢明かもしれませんね。といって、隠されると隠されるで気になってしまうのも雄っぱい……。「あるはずの乳首が隠されている」と、「無防備に見えている」以上に、性的な存在感を放つんですよ!
二村 どういうことですか?
岡田 たとえば『聖闘士星矢』では、ドラゴン紫龍なんかは露出狂かってほど自発的にばんばん脱ぎますが、アンドロメダ瞬だけは、どんなに露出しても裸にサスペンダー止まりです。『星矢』は乳首ナシ世界のはずなんですが、サスペンダーの位置が絶妙なので、「瞬だけは、乳首があるような気がする」という錯視が起こる。
『聖闘士星矢』文庫版4巻(車田正美、集英社)
金田 裸サスペンダー!! キター!!
岡田 少年漫画なんだから、男はガバッと脱げばいいんですよ。隠すから気になる。おまえはヒロイン気取りかよって話です。そうして、同じくヒロイン気取りの男キャラがこちら。『ファイブスター物語』のレディオス・ソープ、奇しくもアニメ版の声優はアンドロメダ瞬と同じ堀川りょう。彼は絶世の美青年なんですが、男にシャワーを覗かれて「きゃっ」と言って、「股間と一緒に胸を隠す」シーンがあるんです。女子か!
『ファイブスター物語』1巻(永野護、角川書店)
金田 一巻から女子ファンをグッとつかんでいく、すごくいいシーンですよね!!
二村 当初は興味なかったはずなのに、隠されるとそこに目が行ってしまう、という……。
岡田 そう、こんなリアクションされたら、ノンケの男でもドギマギしちゃいますよね。次に風呂場から出てきたコマでも、彼はバスタオルを腰巻きにせず、胸元を覆い隠す感じに巻くんですよ。それに対して「ムネを隠すな!」とツッコミが書かれている……。
金田 実際は胸のところに彼の正体がバレてしまうある紋章が刻んであったから、胸を隠しているんですけどね。
岡田 そうそう。でもやっぱり、「男に雄っぱいを隠されると、隠れてるものが気になって、なんかエロい」ということが、強烈に印象づけられる名場面です。「男に乳首が描かれると性的」……この件は、のちほど金田さんにもBL的な見地からくわしく教えていただきましょう。
次回は9月13日(土)更新予定。少年まんがにおける「おっぱい」の話、まだまだ続きます!(次回が待てないあなたには、第1弾の「これからのアナル*とやおい穴の話をしよう」がおすすめです!)
構成:藤村はるな 撮影:小松崎拓郎