日本一お詫びと訂正の多いサイト、ナタリー
唐木元(以下、唐木) 最近、僕ね、ネットを見ていて気になることがあるんです。
—— ほう、なんでしょうか。
唐木 記事の「消し逃げ」みたいなことが目につくんですよ。
—— というと?
唐木 例えば、リアルサウンドさんが紅白のレポ記事を消したのって覚えてますか?(※1)。最近だと報知新聞さんがYMOのステージに置いてある人形を、テイ・トウワさんなのに「教授」って書いてしまった記事とか。炎上してすぐ消すというパターンが多いんですよね。確かに出した記事がカジュアルに消せるっていうのは、ネットの便利なところでもあります。
※1 株式会社サイゾーが運営する音楽情報サイト「リアルサウンド」が、「どこよりも早い全曲レビュー」として、2013年紅白歌合戦のレビューを上げた。しかし、アーティストや曲に対し「知らない」「興味がない」などの感想を書くなど、内容に問題があり炎上。翌日、記事は削除された。
—— 紙に刷ったものを回収するとなると、大変なことですからね。
唐木 そうです。メディアをやっている身としては、炎上したらそりゃ引っ込めたくもなるよな、という気持ちは痛いほどわかる。でも一方で、いったん校了したものを黙って引っ込めるって、企業が運営するメディアとしてやっていいことなんだろうか、とも思います。じゃあお前んとこはどうなんだ、ってブーメランが返ってくるわけですが、ナタリーはほぼ、記事を削除したことがないんです。
—— おお、そうなんですね。
唐木 えーと、すみません、「ほぼ」っていうのが格好悪いところで(笑)。正確に言えば、これまでに2回あるんです。とはいえ12万本の記事を上げてきたなかで、それだけです。
—— 炎上したから、とかではないんでしょう? 7年でそれだけの記事を上げてきて2本は、ものすごく少ないと思いますよ。
唐木 でも消したことは事実ですから、ゼロではないってあたりに大人の苦みを感じていただけたら(笑)。あともうひとつ気になっていることがあって、ネットって公開後でも記事を修正できますよね。最近、産経新聞さんでブラジルワールドカップ関連の記事が炎上して、その部分を削除したというケースがありました(※2)。こういうふうに、アップしたあとで何ごともなかったように記事を修正することも、ナタリーは基本的にしていません。
※2 産経新聞グループのニュースサイト「MSN産経ニュース」が2014年ワールドカップ特集内の「ブラジルにセックス観光の恐れ 児童買春にも目を光らせるが…」という記事内で、具体的な買春の方法を教示し、炎上した。現在は、問題箇所を削除した同名記事が上がっている。
—— へえ、そうなんですか! 事実誤認の場合などでも?
唐木 もちろん誤字や事実誤認は即座に直しますよ。でも、黙って直すことはしません。するときは紙の雑誌や新聞と同じく、記事内に「お詫びと訂正(詫び訂)」を添えるようにしているんです。ナタリーは、ネット上では珍しい詫び訂が載っているサイトで、さらに言えば、間違いなく日本で一番詫び訂の多いサイトなんです。もちろんさっきの記事削除の話と一緒で、大人の事情というものがあって、すべてに詫び訂が付いてるというわけではありません。たとえばネタ元の企業さんから「みっともないから詫び文は付けないで」と言われて、付けないこともある。でも9割以上の修正に詫び訂が付いています。
—— ナタリーのサイト内検索で「お詫びと訂正」と検索すると……あ、出てきますね。
唐木 2000件くらい出てくると思いますよ。他の文字列の訂正文も含めると、2500件近くあると思います。めちゃくちゃ恥ずかしいことですが、しかたないんですよね。
—— でも、12万件の記事のうち、2500件ということは、約2%。それくらいは間違えますよ。しかも、ナタリーの記事を上げる速度と量だったら、発生しないわけがない。むしろ少ない方なんじゃないですか。ちゃんと詫び訂を入れることは、ナタリーの信頼度を増していると思います。
唐木 いやあ、どうなんでしょう。むしろ信頼度は落ちてるんじゃないでしょうか。だってよそはひっそり直してるのに、うちだけバカ正直に「誤字がありました」「事実誤認がありました」とか書いてたら、そこだけ見た人は「なんだこのサイト、間違いだらけじゃん」って思うはずで。
—— うーん、メディアのことをよく知らないとそうかもしれません。どうして、それでも「お詫びと訂正」を入れるんですか?
あえて、オールドメディアを模倣しようとした
唐木 記者に緊張感を持ってもらいたいというのもありますが、なかば、意地みたいなもんです。あと理由として、取締役会を構成する大山卓也、唐木元、津田大介の3人とも紙媒体のライター出身で、タクヤと僕は雑誌の編集者だった時期があることが挙げられると思います。つまり、出版業界というオールドメディア出身者がやってる、オールドメディアのやり方をインターネットに接ぎ木したメディア、というのがナタリーのありのままの姿なんです。外向きには「ファン目線」というポリシーを掲げて、業界目線にならないことを標榜している一方で、仕事のやり方については業界の仁義を守り、古くさいやり方を踏襲している。見る向きによって相反したところがあるんです。
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