—— 今回、なにやらとっても怖くて、挑戦的な“シェアハウス”のテレビ企画をやるとお聞きました。
中村洋基(以下、中村) そうなんです。テレビ史上初となるアプリ連動のフェイクドキュメンタリー※番組ですね。
※フェイクドキュメンタリー:フィクションのドラマやストーリーを、撮影手法やVTRの編集テクニックにより 一見ドキュメンタリー(ノンフィクション)に模した作品として表現する映像手法
中村洋基(なかむら・ひろき)
クリエイティブラボ・PARTYのクリエイティブ・ディレクター。主な仕事に『しずかったー』等『TOYOTOWN』すべてのWeb、レディガガの等身大試聴機『GAGADOLL』、『Haruhi Hunting』、『ガスの仮面』など。
—— その名も『SHARE』。番組としては、ホラーのジャンルですよね。今回お話伺うにあたって、「怖い」という感覚について周りの人に聞き込みをしたんです。そうしたら、三種類の人がいました。
まずは、怖くないから見ない人。次に、怖すぎて見られない人。最後に、怖いから見る人。怖いから見ない人というのは、潜在的なファンなんだと思います。
下川猛(以下、下川) 確かにそうですね。
下川猛(しもかわ・たけし)
株式会社フジテレビジョン・プロデューサー。編成部にて、深夜編成担当を経て、現在はコンテンツデザイン部に所属。主なプロデュース番組は、『にっぽんのミンイ』『ボーカロイド歌謡祭』『THE LAST AWARD』『THE BRAINSTORMING』『THE CONSULTING』『第8地区』など。
—— 今回は、人はなぜ怖いものを見るのかという、根源的なことを知りたくてやってきました。
中村 これは「怖いものオタク」といっても過言ではない、長江さんにお話を聞きましょう(笑)。
長江俊和(以下、長江) 人が怖いものを見る大きな理由は、ずばり「人間誰しも必ず死ぬから」だと思っています。それは30年先かもしれないし、明日かもしれない。いずれ自分に死が訪れます。
長江良和(ながえ・よしかず)
映像作家、小説家。代表作に「放送禁止」シリーズ、映画『パラノーマルアクティビティ 第2章 TOKYO NIGHT』、『不安の種』、『富豪刑事』、『eveのすべて』、小説『出版禁止』がある。
—— 確かに「死」は誰も避けられない、確実なことですね。では、怖いものを見なくてもいいのに、ついつい見るという選択肢を選んでしまうのはなぜでしょうか?
長江 ホラーは、人間は死んだらどうなってしまうんだろうと、死の先にあるものの凄みを感じさせてくれますよね。自分がゼロになったときの恐怖が根源的に人間にはあって、死んだ後のことや世界を知りたいと思っているんだと思います。
—— 「怖いもの見たさ」というやつでしょうか。恐怖ものって、「驚いてしまうドッキリな怖さ」と「すっと背筋が寒くなるような心理的な怖さ」の2種類があると思うのですが、そこらへんはどうですか。
長江 今回の『SHARE』に関しては、ホラーであることを意識して作った作品になりますが、私は、いわゆる怖がらせるだけのホラー映画に興味がないんです。実は、これまでもホラーを作っているつもりはなくて。ジャパニーズ・ホラーというジャンルで、『リング』や『呪怨』が王道だとしたら、自分が作っているものは王道じゃないと思っています。
—— フェイク・ドキュメントのホラーを確立した『放送禁止』シリーズもですか?
長江 はい。見ようによっては怖いし、ジャンルでくくろうとしたらホラーかもしれませんけれど。
「放送禁止」シリーズ予告篇集 - YouTube
中村 『放送禁止』って、実は人間の狂気がテーマですよね。どの話の中でも、おどろおどろしいことや超常現象が起きるように見えますが、それはすべて狂気をもった人間の仕業だったと、辻褄が合うところがおもしろい。
長江 まさにそうですね。
中村 先ほどおっしゃっていましたが、恐怖には2種類あると思います。絶叫マシンのような「危ない、死ぬかも!」といった、瞬間的な恐怖を与えてエンドルフィンが出るもの。もうひとつは、意味的な怖さ。たとえば新興宗教の洗脳や凄惨な事件の犯人による掲示板の書き込みとなど、人間の深層心理に絡んでいるもの。
—— はい。
中村 前者は、びっくりするけど、面白いかというと、さほど面白くない。後者のような、他人の向こうに見える「自分も間違ったら到達してしまうかもしれない狂気」の方が、興味がわきます。
—— 長江さんが描きたいのは、そのような狂気なんですか?
長江 そうですね。ただ人間の狂気が怖いというのも確かにそうですけど、幽霊の狂気も恐いです。人間は死ぬ運命にあるから、死後や幽霊に思いを馳せる。幽霊も元は人間ですから、幽霊にも狂気が宿るんです。論理は同じ。
—— 確かに怨念って、幽霊の狂気かもしれません。そこが物語の核だったりもしますものね。
長江 そうそう。貞子が怖いんじゃなくて、貞子の狂気が怖い。人間であれ幽霊であれ、恐怖の根底に流れるものは一緒。『放送禁止』は心霊もののフリをした作品ですが、『SHARE』は『放送禁止』ではやってこなかった方向の、死後の世界や心霊、オカルトものに主眼を置いて作ってみました。
—— これまでの作品の中で似たようなものは作ったことがあるのですか?
長江 強いて言えば『パラノーマル・アクティビティ 第2章 TOKYO NIGHT』に近い。さらに、それに『放送禁止』にあった謎解きの要素も加えていて、『SHARE』は自分がやってきたことの集大成の番組になっているんです。
映画『パラノーマル・アクティビティ 第2章/TOKYO NIGHT』予告編 - YouTube
中村 『放送禁止』はドキュメンタリー風の手法でリアリティを感じさせつつ、人間の狂気というテーマに謎解きを盛り込んだのが魅力でしたね。今回の『SHARE』は、ホラーとドキュメンタリーを合体させました。
下川 長江さんはこれまで幽霊ではなく怖ろしい人間のストーリーが多かったのでフジテレビ局内では、長江さんが心霊やオカルトを中心に描くというのは珍しいという声が上がっているくらいです。
長江 フジテレビは『トリハダ』や『放送禁止』など「CXホラー」というラインナップがあって、ホラーというジャンルを極めてきた部分があると思っています。自分はそこを発展させたくて、劇場映画を作る感覚で今回は作りました。
下川 まさに90分の映画を作っている感覚に近かったですね。ドラマシリーズではなく、一回限りのアプリ連動という、放送時間にもある程度縛られている珍しい作り方ですね。
—— アプリ連動することで、恐怖というエンターテイメントが進化できる?
長江 元来、心霊現象とテクノロジーの進化って呼応しているんですよ。例えば、写真に幽霊が写りこむ心霊写真もそうですし、録音機の中に変な声が入っているとかも新しいテクノロジーにまつわる心霊現象です。『リング』もビデオが話の鍵になっている。
—— 確かにそう言われてみれば。
長江 今回「SHARE」ではスマホアプリを使って、その最先端をやりたかったんです。だからテーマはオカルトというところに行き着いた、という経緯があります。
中村 スマ―トフォンは、いまや誰もが持っているパーソナルなメディアです。今はテレビをつけながら、スマ―トフォンを触っている人が多いと思います。
—— いわゆる、ながら観ですね。
中村 ならば、テレビとスマホを一緒に使ってもらう同時体験をできないか、という実験が、最近よく行われています。テレビの主役は、ふつう、ドラマの登場人物であり、バラエティ番組の参加者です。
そこに、テレビとスマホを連動させると、「自分が主人公になる」コンテンツを提供できると考えています。その中で、番組を見ている人にとって一番良い体験は何かなっていうのを模索しています。
—— 具体的に今回「SHARE」でのインタラクティブな仕掛けとしては、どのようなものがあるのですか?
中村 『SHARE』専用アプリ※をつくりました。これ、番組開始前は、いわゆるフツーの番組紹介のアプリの顔をしています。舞台となるシェアハウスの間取や登場人物紹介、みたいな。このアプリの真骨頂は、番組本番です。番組が始まるしばらく前になるとアプリ内でカウントダウン画面が出現し、連動がはじまります。
※スマートフォンアプリ「SHARE」(iPhone / Android)
—— (アプリのサンプル画面を見て)かっこいいですね。
中村 放送とともにインタラクティブにいくつもの仕掛けが作動します。
例えば、このシェアハウスは、何者かによって盗撮されています。アプリを通して別アングルの盗撮カメラが見られたり、物語の中で電話がかかってくるシーンで、手元のスマホには電話のむこうが……など、詳細は控えますが、視聴者に驚きや怖さをダイレクトに伝える工夫をしています。
—— こ、これは怖そうです……。
中村 このアプリには、ストーリーの中でもある意味を持っています。それが主人公になる、ということ。テレビ×アプリの新しいエンターテイメント体験として、余韻を残すことができればなと思っています。
—— 何が起きるかは番組を観ながらのお楽しみですね。
中村 最後に、ひとつびっくりするような大きな仕掛けがあるので、よく見ていてください。また、番組を通して、ひとつの謎に解答してもらいます。進行にしたがって、キーワードが明かされていくので、番組の終了後に解答を入力するという参加型の形式を取っています。
—— これは、一人で観るんじゃなくて、誰かと観たほうがいいかもしれないですね、いろんな意味で。お酒とか飲みながら。酔っ払ってしまって見逃さないか心配です(笑)。
中村 アプリにアラート通知も付けてあるので大丈夫ですよ(笑)。
下川 むしろ、放送当日は友達と家飲みをして、ビビりながら一緒に謎解きをしてほしいですね。
次回「テレビビジネスの最前線で革命を起こすには」8月30日更新予定
聞き手:加藤貞顕 構成:力石恒元
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地上波放送史上初! スマホアプリ連動フェイクドキュメンタリー『SHARE』
8月30日(土)27:33~29:03
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