東京銀座のギャラリー、ガーディアン・ガーデンに立ち寄ってみると、入口に何やら貼り紙が。メニューらしきものが書いてあって、いつから食堂になったのかしらと戸惑います。
とにかくなかへ入ってみると、もちろんそこは従来通りのギャラリーでひと安心。ただ、壁に並ぶ展示を一見すれば、入口の貼り紙の意味がわかりました。そこにあるのは、食べものや飲みものの写真ばかりなのです。しかも、これがどれもなんともおいしそう。眺めているだけで幸せな気分になりますよ。入口のメニュー、ダミーであるのがなんとも恨めしいです。実際に注文できたらよかったのに。
開催中の展示は、長野陽一 料理写真展「大根は4センチくらいの厚さの輪切りにし、」です。風変わりなタイトルですね。これは、展示されている写真のうちのひとつ、大根が写っているものの説明文の一部です。ここに掲げられた写真は、雑誌の「食」関連ページの取材で撮られたもの。雑誌掲載時にはたいてい、写真にキャプションが付きますよね。その言葉の冒頭をタイトルに流用したとのことです。
長野陽一は、若い男女のポートレート作品その他で知られる写真家ですが、同時に雑誌媒体などでも広く活動しています。とりわけ、ここ10年以上にわたって、ライフスタイル誌「クウネル」で食べものの撮影を続けてきました。凝ったライティングを施したりせず、自然光によって、まるで食べものがほんとうに目の前にあるかのように撮るスタイルは、新しい料理写真の撮り方としてすっかり確立された感があります。
長らく撮りためてきたそれら食べものの写真を、一堂に集めてみたらどう見えるだろうか。そんな関心から、今回の展覧会が実現することとなりました。雑誌で紹介された写真が、ギャラリーの壁に掛かると、見え方がどう変化するのかという興味も本人にはあったようですね。雑誌で用いられる写真は、記事の一部として役割を果たすものですが、こうして一枚ずつが額装されて並ぶと、また異なるよさが発見できますよ。画面のあちらこちらの細部まで目を留めて、じっくり眺めたくなりますし、そうして時間をかけて観るに足る写真なのだなと改めて感じ入ります。
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