【ハーレクイン豆知識:乗り物】
世界を股にかけるヒーローが多く登場するハーレクイン作品には電車・飛行機・車等様々な乗り物が登場しますが、初期作品では日本車が人気でマツダのスポーツカーなども出てきます。変わり種としては「白馬に乗った王子」ならぬ「らくだに乗ったヒーロー」や、 ヒロインが乗りたがっていたトラクターに乗って登場したヒーロー、はたまた熱気球に乗ってヒロインの前に舞い降りてきた(というか落ちた)ヒーローも!
【作品紹介】
『この手はあなたに届かない』
小さな湖畔の町で暮らすジョイの楽しみは、毎年夏になると避暑を求めてグレイ・ベネットがやってくることだ。グレイは近くに邸宅を持つ、名家のハンサムな御曹司。ジョイは長年彼に片想いをしながらも、たまに挨拶をかわし、甘い情事を密かに夢想するだけで満足していた。だがその夏は何かが違った——ひょんなことから、ジョイは彼に連れられNYに行くことになったのだ。そして初めて知る華やかな世界の魔法にかけられ、グレイと官能のときを過ごす。まさか夢が叶うなんて……喜びもつかの間、待っていたのは冷たい現実だった。
「何年もぼくを愛している?」
グレイは低い声で言った。これ以上グレイを見ていられず、ジョイは彼の顔から目をそらした。
「ええ、ばかみたいでしょう?いちばんどうかしてるのは、最初に寝た晩のこと。わたしが言ったあの言葉は本気だったの」
ジョイは耳障りな声で笑った。
「でも、心配しないで。もう乗り越えたわ。わたしは幻想に取りつかれるくらいだから、間抜けには違いないけど、マゾヒストじゃない」
荷物を持ち上げる。
「だから、さようなら、グレイ。あなたが一夜の情事を得意としているのはわかってるけど、万が一北部に来たくなって、わたしを捜す気になったとしても、それはやめてね。もう二度とあなたに会うつもりはないから」
ジョイはくるりと向きを変え、大股に絨毯の上を横切った。部屋を出ると、ドアは背後でひとりでに閉まった。
ペンシルベニア駅は夜の遅い時間でもかなり混み合っていて、荷物を引きずって早足で歩くジョイは、何度も妙な目で見られた。クロムイエローのイブニングドレスを着た女性が、巨大な駅のロビーを突っ切る光景は、さすがのニューヨークでも珍しいようだ。 乗る予定の列車はすでに待っていたので、ジョイはドレスの裾を持ち上げ、プラットフォームに急いだ。いちばん奧、エンジンのそばの先頭車両に制服を着た集札係がいて、ジョイに向かって手を振った。
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